Love hands


「ねぇ、嵐君聞いてる?」
「ん……ああ、聞いてる…」
「もう!さっきからそればっかり!!」

大学に入学して、初めての夏休みも直前のある日。未奈は不二山の部屋で旅行の
パンフレットを眺めていた。前々から二人で旅行をしようと話してはいたのもの、
いざ大学に入ると不二山は大学の柔道部の練習が忙しく、旅行をするどころか
デートをする事さえままならなかった。

それ故に、夏休みに旅行をということになったのだが……行き先を決めるべく、
未奈は沢山のパンフを持ってきた。しかし当の不二山はパンフをに目を通すどころか、
パンフの説明を聞く段階で転寝する始末だった。

「わりぃ……なんか、さっき飯食ったら眠くなってきちまって」
「……昨日も練習、遅くまでやってたの?」
「ああ……」
「もう。仕方ないなぁ。じゃあ、ちょっとだけお昼寝しなよ。私、パンフレット
 読んでまってるから」
「ホント、わりぃ……じゃあ、10分だけ。……」

そう言ったものの、不二山は横になる気配を見せず、ただ僅かに目を細めて
無言のまま未奈を見つめている。直ぐに横になるのかと思っていた未奈は、
不二山の様子に小首を傾げた。

「どうしたの、お昼寝していいよ?」
「…………膝枕」
「……」
「膝枕してくれ」
「……捻り無しの直球できたね。もう……仕方ないなぁ。ちょっとだけだよ?」
「押忍!」

不二山は嬉しそうに返事を返すと、ごろりと横になり未奈の膝の上に頭を乗せた。
途端、適度な重みと不二山の暖かさが、未奈の膝の上に伝わる。そして然程の間を
おかず、不二山からはすぅすぅと軽い寝息が聞こえてきた。

「よっぽど眠かったんだね、嵐君」

未奈はそう呟くと、軽く不二山の髪をなでた。以前はこうやって不二山の髪や体を
なでる事がままあったが、最近はその機会がめっきり減った。忙しくてなかなか
会えないという事もあるが、それ以上に未奈が触るよりも遙かに多く不二山が未奈の
体を触るのだ。不二山曰く、三年分の仕返しだから覚悟しろ!との事だったのだが、
それはそれ、これはこれで、未奈も不二山に触りたいとずっと思っていたのだった。

「起きない程度に、そっとね……」

未奈はゆっくりと指を不二山の顎に当てると、指先を滑らせて喉仏を撫でる。それから、
鎖骨や肩の筋肉を撫でて、未奈の手は不二山の胸元に到達する。

「やっぱ嵐君の体、いいな。筋肉のライン、凄い奇麗」

一通り不二山のさわり心地を楽しむと、未奈は再度頭に触れた。
そして、今度は顎ではなく口元に軽く指を這わせる。しかし、未奈の指先が不二山の唇に
触れた瞬間。未奈の指はぱくりと不二山に食いつかれた。

「ひゃぁっ!!」

思わず変な声を上げて手を引っ込めた未奈だったが、それよりも早く不二山が未奈の手を掴んだ。
そして、不二山は未奈の細い指先を甘く噛むような仕草を見せる。驚いた未奈が不二山の顔を
覗き込むと、不二山は微かに口の端を上げた。

「ご、ごめん。起こしちゃった?」
「いや……。やっぱ、いいなと思って」
「え……?」

不二山の言葉に、未奈が僅かに首を傾げた。すると、薄く目を開けた不二山が、
膝枕をしたまま未奈を仰ぎ見る。その口元にははっきりとした笑みを伴って。

「俺、お前の手、好きだ。今の俺は……前と違って、お前ともっと凄いスキンシップできるけど。
でもやっぱ、お前に触られるのっていい。だから、好きなだけ触っていいぞ」
「嵐君……」

未奈は不二山の言葉に微笑むと、改めて不二山の体に触れた。
未奈を軽々と担ぎ上げる事の出来るたくましい腕、鍛えに鍛え上げられた腹。
愛しい人の体に触れ、未奈の心が満たされた瞬間……

「じゃあ、そろそろ十倍返しすっから」

と、悪い笑みを浮かべた不二山に押し倒される事になるのだが、それはまた別の話。




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