あおいけもの

りんのおうちのにわのすみ。
あおいけものがうろうろしています。

りんのおうちにはけっかいがはってあって、よそのけものはかってにはいることができないのです。
むりにはいれば、どんないたいめにあうかわりません。しかたがなく、あおいけものは
けっかいのはじのはじっこのほうにちょこんとひざをかかえてすわることにしたのでした。


そう。

りんがあおいけものにきがついて、おうちにいれてくれるのをまつことにしたのです。
















「かえないのだから、いえにあげてはいけないよ。」
あーちゃーはりんにいいました。
「でも…ずっとこっちをみているのよ?」
りんはあーちゃーをうかがうように、みあげてみました。
しかし、あーちゃーはくびをたてにはふりません。
「えさもやってはいけない。くせになるからな。」
あーちゃーはだめだだめだと、りんにねんをおして、へやから
でていってしまいました。

まよなか。

りんは、ぺっどからはいだして、そっとまどからそとをのぞいてみました。
すると、あおいけものがさきほどとおなじところに、じっとうずくまって
いたのでした。そとはこぬかあめ。あおいけものはぬれそぼって、
ぷるぷるとふるえていました。よくみると、はなみずもでているようです。

りんは、そのあおいけものをすこしかわいそうにおもいました。
りんのあーちゃーはあたたかいおうちのなかでねむることができるのに、
あおいけものは、そとでひざをかかえてふるえています。
「ちょっとぐらいなら、いいかしら。」
あたたかいみるくをいっぱいのませるぐらいなら、あーちゃーも
おこらないかとおもい、りんはまどをすこしあけ、あおいけものを
てまねきしました。すると、あおいけものはものすごいいきおいで、
そのすきまからいえのなかにあがりこみました。

「ったくおっせぇよ。おじょうちゃん。かぜひいちまうじゃねぇか。」

…りんは、いっしゅん、あれ?まずったか?とおもいいましたが、
どうもあとのまつりのようでした。











#2

いえにあがりこんだあおいけものは、「くしゅっ!」とひとつくしゃみをしてから、
ぶるぶるとからだをふるわせました。

「さみぃ。」

そうひとことだけいって、りんをじっとみつめています。りんは、いえにあげるつもりは
なかったので、どうしていいのかわかりません。ただ、あおいけものはあめにぬれて
とてもさむそうでした。とりあえず、りんはたんすからたおるをとりだし、
あおいけもののからだをふいてあげました。

「あたたかいみるくをいっぱいのませてあげるから、はやくおうちにかえりなさいよ。」
「んー。」
「うちには、あーちゃーがいるから、あんたはかえないのよ。」
「んー。」
「って!てをなめたらくすぐったい!」

あおいけものははなしをきいているのか、いないのか。たおるでからだをふかれているあいだ、
りんのてをなめようとしたり、てくびにあたまをこしこししようとしたりしてました。
そのたびに、りんにぺちりとたたかれましたが、いっこうにきにするようすはありません。

「ほんとうに、あんたってば!」
「んー。いえ、でてきた。」
「はぁ!?」
「で、おじょうちゃんがてまねきしたから、このいえにはいってきたんだぜ。」

そういうと、あおいけものはにやりとわらいました。















#3

「そんなこといっても!あーちゃーがだめっていってたし。」
「このうちでは、あーちゃーってやつがいちばんえらいのか?」
「え?そんなわけないじゃない!わたしのほうがえらいにきまってるでしょ!」
「だったら、おじょうちゃんがいいなら、いいだろ?」

そういうと、あおけものはりんのてくびにこしこしとあたまをこすりつけました。
あまりあーちゃーはこういうことをしないので、りんはふかくにもちょっとかわいいかも、
とおもってしまったのでした。そとをみると、こぬかあめはほんぶりになり、
いまそとにおいだすのはちょっとかわいそうです。

「むー。しょうがないわね。きょうはおうちにいれてあげるから、
 あしたのあさになったらでていきなさいよ。」
「まぁ、きがむいたらな。」

あおいけものはにやりとわらい、りんのべっどのなかにもぐりこみました。

「ちょっと、あんた!なにしてんのよ!!」
「んあ?きょうはいっしょのおふとんでいいんだろ?」
「そんなわけないでしょ!!」

りんはあおいけものをいっぱつなぐり、べっどのしたにひきずりおろしました。

「けものはゆかでねるのよ!」
「ちぇ。きびしいなぁ。」

あおいけものは、しかたなしにゆかにもうふをまるめてねどこをつくり、
そこでねむりについたのでした。















#4

がさごそ、もぞもぞ。

よるのよなか。なにやらへんなけはいがします。

がさごそ、もぞもぞ。

りんはめをさまし、ふと、べっどのよこっちょをみてみました。
なにやらあおいのが、もぞもぞとりんのべっどにはいってきます。

「こら!」
「あ、いてっ!」

りんが、がつんとけりをいれると、あおいけものはすごすごと
ゆかのねどこにもどっていきました。

それからしばらくして。

…がさごそ、もぞもぞ。

「もー!!」
「うわ、いてっ!!」

おなじことをにど、さんどとくりかえし、しばらくするとやっとあおいけものは
もぞもぞしてこなくなりました。

「もう、やっとこれでねむれるわ。」

りんはねむりにつくまえに、すこしあおいけもののようすをみてみることにしました。
すると、あおいけものは、ねどこでまるくなってねむっているようでした。
しかし、ようすがすこしへんです。はぁ、はぁとあらいいきをはき、からだがこきざみに
ふるえています。

「え…どうしたのかしら。」

りんは、そっとあおいけもののひたいにふれてみました。すると、やはりおねつがあるようです。
きっとこぬかあめにぬれて、かぜをひいてしまったにちがいありません。

「むー。しょうがないわね。」

りんはひとつうなってから、あおいけもののてをひっぱりあげ、じぶんのおふとんのなかに
いれてやりました。さすがに、ぶるぶるとふるえているあおいけものをゆかにねむらせたまま
じぶんはべっどでねむることなど、りんにはできなかったのです。りんはあおいけものに
しっかりおふとんをかけたあと、ゆびでぴーっとしーつにきょうかいせんをひき、あおいけものに
いったのでした。

「ここからこっちはあたしのじんちよ。はいってきたらぼっこぼこにするんだから。
 おとなしく、こっちかわでねてなさいよ。」

あおいけものは、こくりとうなずき、りんのおふとんのなかでねむりについたのでした。















#5

ちゅんちゅん、ちゅんちゅん。ことりのこえがきこえます。やわらかいあさひと、あたたかな
ぬくもりのなか、りんはめをさましました。

「んー?」

そう、なんだかからだがぬくぬくとあたたかいのです。りんはねぼけまなこをこすって、
ぬくぬくのげんいんをみてみました。すると、りんのからだにぴったりとあおいけものが
みをよせていたのでした。

「あー!こいつ!!!」

りんは、そくじにてをぎゅっとにぎって、あおいけものをなぐろうとしました。しかし、
あおいけものはまだ、ぐっすりとねむっていて、ちゃいろいおみみはむけいかいに、だらりと
さがっていたのでした。りんは、あおいけものの、つややかなけなみや、ちゃいろのおみみを
じっとかんさつしてみました。りんのあーちゃーも、すてきなけなみや、ちゃいろのおみみを
もっていましたが、あんまりさわらせてくれませんでした。それで、もんくをいうと、かならず
「きみは、しゅくじょのたしなみをしらんのかね?」などといらんおこごとをたれるのです。

「ふわふわだぁ。」

りんは、ちゃいろのおみみのけをゆびでそっとなでました。くすぐったいのか、あおいけものは
おみみをぴくぴくうごかします。りんはおもしろくなってさらに、ゆびでそっとなでてみました。

「うーーー。くすぐってぇ。」

あおいけものは、すこしめをあけて、ちいさくうなりました。しかし、ねむさがまさったのか、
まためをとろんととじてねむってしまいました。しっかりまぶたがおちたことをかくにんし、
りんはさいどおみみをゆびでそっとなでます。

「うーーーー。」

そのたびにおみみをぴくぴくさせて、あおいけものはちいさく、うなります。
そして、またけもののまぶたがおちたことかくにんしたりんが、おみみをさわろうとしたしゅんかん。

「がぷ。」

なんと、あおけものはりんにかみついたのでした。















#6

「きゃぁ!!」

りんはおもわず、おおごえをあげます。なにせ、あおいけものがいきおいよくかみついたのですから。
しかし、おおごえをあげてみたものの、かまれたゆびはちっともいたくありません。

「がじがじ、がじがじ。」

あおいけものはあいかわらず、りんのゆびにかみついていました。しかし、それはあまがみで
ちっともいたくはないのです。

「はらへったなー。がじがじ。」
「ちょっと、あんた!なにすんのよ!!」
「くすぐってぇし、はらへった。」

おおいけものは、あかいめをうーんとほそめてりんにうったえました。そして、りんのゆびを
かむのをやめると、りんのおなかのあたりをなでなでしはじめました。

「おじょうちゃんのことをくっちまおうかなぁ。
きのうのよるは、おなかがまるだしで、とってもおいしそうだったぜ。」
「そ、そんなわけないでしょ!」
「すごい、ねぞうもわるかったぞ。」
「そんなわけ…あーー。」

よくみると、りんとあおいけものがいるのは、べっどのはじのはじっこのほう。
りんがきのうのよるひいたきょうかいせんからは、だいぶあおいけもののじんちのほうに
はいってしまっています。あおいけものはりんにぴったりみをよせないと、べっどから
おっこちてしまいそうです。

あおいけものは、にやりとわらい、みをひるがえして、りんのうえにぽんとのっかってきました。

「こっちはおれのじんちだから、すきなようにしていいんだろ?」
「うーちょっとおもい!!げんきになったんなら、はやくおうちにかえりなさいよ!」
「もういっしょのおふとんでねたなかだろ?」
「あーちょうしにのるんじゃない!!」

りんはちからづよく、あおいけものをごつんとなぐろうとしましたが、
けものはひょいとそのこぶしをよけ、りんのほっぺをぺろりとなめたのでした。


















#7

「ひゃぁぁ!」

りんはまたもや、おおきなこえをあげました。あおいけものがりんのほっぺをぺろりと
なめてしまったからです。

「んあー。あまいなぁ。ぺろ。」

りんがおどろいてみうごきできないことをいいことに、あおいけものははんたいがわの
ほっぺもなめました。

「もー!!くすぐったいよう!」
「んー。きもちいいだろ。ぺろ。」

あおいけものはちょうしにのって、りんのおみみもぺろぺろとなめだしました。
さすがのりんも、くすぐったさのあまり、あおいけもののしっぽをぎゅーとひっぱりました。

「あいててて。しっぽはだめだぞ!」
「んもう。いうこときかないからよ!」
「わかったわかった。もうぺろぺろしないから。しっぽはなしてくれよ。」
「わかったわ。もうぺろぺろしちゃだめだからね。」

りんがしっぽをてばなしたしゅんかん、あおいけものはぺろぺろするのはやめました。
そのかわり、あおいけものはりんにぎゅーーとだきついておかおをりんのくびすじに
こしこししたのでした。
















#8

「まったく、あさからなんのさわぎだ。」

あーちゃーはみけんにしわをよせながら、りんのへやのどあをのっくしました。
しかし、なんどたたいても、りんのおうとうはありません。

「むーーーーー。しかたない。」

あーちゃーは、ばたんとりんのへやのどあをあけました。

すると。

りんのふとんのなかで、もごもごとうごめく、なにかがいます。

「あ!あーちゃー!!な、なにれでぃーのへやをかってにあけてんのよ!」

りんは、いそいであおいけものをふとんのなかにかくしました。
きのう、さんざんあーちゃーに、おうちのなかにいれてはだめだとねんをおされて
いたからです。しかし、りんにすりすりすることにむちゅうのけものはいうことをききません。
ふとんのなかで、もごもごとうごめいています。

「なんどものっくをしただろう。りん、それより…」
「な、なんでもないわよ!」
「まだ、なにもいってないぞ。しかも、しっぽがでてる。」
「ええ!うそ!!」
「ああ。うそだ。」

あーちゃーが、みけんにしわをよせながら、りんのふとんをひっぺがすと…
あおいけものが、りんにぎゅーとだきついているではありませんか。
そのしゅんかん、あーちゃーのあたまのなかで、なにやらかちっとおとがしたのでした。

そう。たとえば、てっぽうのげきてつがおちたときのような。
















#9

「ふむ。わたしのちゅうこくは、きけないというわけか?」

あーちゃーはれいせいなくちょうで、りんにいいました。
くちょうはとてもれいせいでありましたが、よくよくあーちゃーの
しっぽをみると、いっぽんいっぽんけが さかだっているのがわかります。
あーちゃーはくちやかましく、りんにちゅういすることがいっぱいありましたが、
こんなにも、けをさかだてているのは、はじめてです。

「でも…あめにぬれて、かわいそうだったのよ。」

りんはこまったかおで、あーちゃーにいいました。しかし、あーちゃーはまゆねをひそめ、
それがどうした、というひょうじょうでいいました。

「それでも、だめだといったろう。」
「むーーーーー。」

りんは、そのあーちゃーのくちのききかたに、すこしはらをたてました。
あーちゃーはあくまでも、りんのけものであって、ごしゅじんさま…つまりえらいのは
りんのほうなのです。

「べつに、このいえのあるじである、わたしがきめたんだから。
 あんたがつべこべ、いうことじゃないわよ。」
「む!しかしだな、どこのけものかわからないようなやつを
 いえのなかにいれるなど、おろかなことはなはだしい。」
「うるさいわね!!!!」

いっぽう、いいあらそいのげんいんのあおいけものは、りんとあーちゃーがののしりあう
さまを、にやにやわらいながらみていました。そして、ふいに、

「ひゃぁぁ!」

とりんがひめいをあげました。
あおいけものが、また、りんのほっぺをぺろりとなめたのでした。

りんのひめいがきこえたしゅんかん。
あーちゃーのあたまのなかで、かちりとおとがするよりもはやく。
あーちゃーはあおいけものへむかって、ふたつのつるぎをふるいました。















#10

りんのほっぺをなめた!りんのほっぺをなめた!!!!

あーちゃーのあたまのなかは、いかりのあまり、あつくなります。

いっしょのおふとんでねむっていたことだって、たいへんつみぶかいのに!
あげく、わたしのりんに「すりすり」するなど、ばんしにあたいするのに!
そのうえ、わたしのりんのほっぺをなめるだなんて!!!!!!!!!!


しかし、あおいけものは、くるりとみをひるがえし、あーちゃーのしょげきを
かわしました。そして、たん、とゆかにちゃくちすると、

「うーーーーうーーーー。」

とちいさく、しかしながら、こうせんてきなうなりごえをあげました。
にやりとわらったそのおかおにある、まっかなひとみは、らんらんとかがやいています。
そして、てにはながいやり。けものひとみと、まるでおなじでまっかないろをしています。

「…しにぞこないめ。」
「はん。そんな、はえがとまりそうなたちで、おれがやれるかよ。」

にひきのけものは、たがいにさっきをはらませたしせんをおくりながら、
しずかに、そのときをまっていました。ぴんとはりつめた、くうきのなか。
ふいにそのせいじゃくが、とぎれたのです。

かんかんかん!びゅんびゅん!かつん!!!

いっしゅんのうちに、つるぎとやりをかわしあうにひきのけもの。
りんはかたずをのんで、そのさまをみまもっていました…が。

どんがら、がっしゃーん。

「てめぇ、つぼなんかなげてくるんじゃねーよ!」

ぶん、びしゃ!ばりばりばり!びゅん!!

「きさまこそ、りんのおふとんをびりびりにして!」

がつん、びゅん、がしゃん、しゅん!!!
みるみるうちに、りんのおへやはだいなしになっていきました。














#11

「ちょっと!あんたたち!!」

りんはおおごえをあげて、にひきのけものをとめようとこころみました。
しかし、たたかいにむちゅうのけものたちは、りんのこえをきいてはくれません。

がしゃん、ごん、がしゃん。
どん、がん、ごんごん。

とうとう、りんのたいせつにしていたくまのぬいぐるみのくびがひきちぎられ、とびました。

「あーんーたーたーちぃぃぃぃ!!!!」

にひきのけものたちが、どすぐろいけはいをかんじたつぎのしゅんかん。
にひきのけものたちのあたまに、ものすごいしょうげきがはしりました。
なんと、りんがにひきのけものたちにむかって、がんとをぶっぱなしたのです。

「あ、いて!」
「つ…なにをするんだ、りん!」
「それは、こっちのせりふよ。あんたたち!わたしのおへやをめちゃくちゃにして!!」

にひきのけものたちは、こえをそろえてはんろんしようとしましたが、
りんのどすぐろいけはい、いや、さっきにまけてくちをつぐみました。
そして、ほんのいっしゅんのすきをついて、あおいけものはりんにかけよったのでした。

















#12

「あ!きさま!!」

あーちゃーがせいしするよりもはやく、あおいけものはりんのあしもとへすりよりました。

「あいつが、きゅうにてをだしたんだぜ。おれは、なんもしてねーよ。」
「むーーーー。」

りんはうでをくみ、あーちゃーをにらみます。たしかに、さきにてをだしてしまった
あーちゃーはいいわけができません。

「おれは、おじょうちゃんによばれて、いえにあげてもらったんだ。
 そのうち、ちゃんとくびわももらえるんだぜ。」

あおいけものは、にやりとわらいました。あおいけもののそのことばに、あーちゃーは
がくぜんとします。なぜなら、あーちゃーはまだりんから、きちんとくびわをもらってなかった
からです。

けものは、ますたーのいうことをさんかいきいてあげるかわりに、ますたーといっしょに
せいはいという、すばらしいえさざらをえるたたかいをします。そのさい、どこのけものか
はっきりとわかるように、ますたーからくびわをもらうのです。

しかし、りんのしょうかんが、あまりにもいいかげんだったため、あーちゃーはりんから
くびわをもらいそこねていたのです。たたかいのさいちゅう、そのことにきづいた
あおいけものは、とっさにそんなうそをついたのでした。

「え、あ、ちょっと。あんたなにを…」

りんはあわててひていしようとしましたが、ときすでにおそく。
あーちゃーのしっぽはだらりとたれ、しかし、きじょうにもそのかなしみはかおにはださず、
あーちゃーはぽつりとつぶやいたのでした。

「そうか。なら、いい。」

きゅっと、きびすをかえしてあーちゃーはへやをでていってしまいました。














#13

「あ…あーちゃー…。」
「いいよ、あんなのほっとけよ。」

りんはいっしゅん、あーちゃーのせなかをおいかけようとしましたが、
あおいけものがあしもとにすりよってきたので、おいかけるたいみんぐをなくしてしましました。

「おじょうちゃんのこと、どうでもいいとおもってるんだぜ。」
「そうかしら………。」
「だって、そうだろ。けもののくせに、ますたーをほっぽりだすなんて。
 けものにあるまじきこういだぜ。」
「…そうね。」

あおいけものは、じぶんはかってにいえでしてきたことをたなにあげ、
つごうのよいことをいいます。りんも、だんだんあおいけものくちぐるまにのせられて、
あーちゃーのほうが、わるいんだとおもいはじめました。

「それで、ものはそうだんなんだけどよ。
 おれ、おじょうちゃんのくびわ、ほしいなぁ。」
「え…。」
「くびわがほしいよう。くれたら、おれ、いいこにするぜ。」

あおいけものは、ここぞとばかり、あまいこえをだし、りんのてくびにあたまをこしこしします。
りんのてにあおいけものの、やわらかい、ふわふわとしたけのてざわりがつたわります。
あたたかく、ふわふわしたけのきもちのよさに、つい、りんのこころがうごいてしまいました。

「しょうがないわね、くびわをあげるわ。」
「やったぜ!いますぐ、くれ。はやく、くれ、くれ!!」

そういうと、あおいけのはりんにはげしくまとわりつきます。
しかたなく、りんはあーちゃーのためによういしたなんぼんかのくびわのうち、
あおいけものににあう、くびわをつけてやったのでした。
















#14

くびわをもらったあおいけものは、よろこびいさんでりんのひざのうえにのろうとしました。
しかし、りんはまゆねをひそめ、ぺしりとあおいけものをはねのけました。

「いてぇな。なにするんだよ。」
「あんた、くびわあげたんだから、もううちのこになったんでしょう?」
「ああ、そうだぜ!!」
「だったら、このいえのあるじのいうことは、ぜったいきかなくてはならないわ。」
「…ときと、ばあいによるんじゃねぇの?」

そういったものの、りんのにぶいひかりをはなつひとみに、あおいけものはけおされます。

「…いいこに、します。」
「うん、わかればいいのよ。ではさっそく、あーちゃーのかわりにあさのこうちゃを
 いれてちょうだい。ちゅうごくこうちゃのはるつみのをね。」
「えーなんでおれが。」
「できないの?」

りんは、にっこりわらっていましたが、めがまったくわらっていません。むしろ、
さきほどよりもどんよりとした、にぶいひかりをはなっています。あおいけものは、ぷるぷるっと
みぶるいしてしまいました。けっきょく、りんのいうことをきいてこうちゃをいれます。

「なによ!どうしたらこんなにもまずいこうちゃを…」
「しかたねぇだろ、やったことねぇもん。」
「しかたない、ですって?」

あおいけものは、ひとみをみずとも、りんのさっきをそのはだみでもってかんじとりました。
けっきょく、あおいけものはりんのゆるしがでるまで、じゅうにかいもこうちゃをいれなおし
たのでした。

「はぁ、なんか、おもってたのとちがう…」

あおいけものは、ぽつりとためいきをもらしました。


















#15

ぴーんぽーん。

げんかんで、よびりんのなるおとがします。あおいけものは、ぴんとおみみをたて
りんのかおをみつめました。りんのしじをまつためです。
けさ、おちゃをいれるところからはじまった、りんのしつけがこうをそうし、
ゆうがたになるころにはすっかりいたについたのでした。

「ちょっと、ようすをみてきて。」

りんはおうぎょうにあおいけものにしじをだします。
あおいけものは、すなおにうなずいてげんかんさきにむかったのでした。
しかし、げんかんにつくと…そこにはなにやらただならぬけはいがします。
あおいけものは、しんちょうに、そっとげんかんのとびらをあけました。

すると、そこには。

うつくしいぎんぱつに、あかいひとみをもつかわいらしいおんなのこが
にっこりとわらってたっていたのでした。















#16

「おまえ、だれだよ?」

あおいけものが、すこしみけんにしわをよせてしつもんするよりもはやく。
おんなのこは、ちいさくためいきをつきながら、かたをすぼめていいました。

「あら、りんはいつからこんなけものをかいはじめたのかしら。
 にひきもかっているなんて、りんにしてはやるじゃないの。
 まぁ、わたしばーさーかぁーにくらべたら、なんびきいてもごみむし
 みたいなものだけど。」
「つか、はなしきけよ、おまえ。」

あおいけものは、あきらかにぎゅうーっとみけんにしわをよせています。
しかし、おんなのこは、まったくいにかいするようすはありません。
ふいにうしろをふりかえり、ちいさくわらって、ことばをはっしました。

「ばーさーかぁー。こいつ、ころしちゃえ!」

かわいらしいこえが、りんのおうちのげんかんにひびいたとたん。
どがーんごがーんめりめりめりーーーーーっと、はげしいおととともに
まっくろでとてもおおきなけものが、げんかんのなかにはいってきたのでした。



















#17

「■■■==■■■=■!!!」

くろいけものは、ひとこえほうこうをあげると、あおいけものにむかって
とっしんしてきました。あおいけものは、すこしおくちのはしっこをあげると、
あかいめをらんらんとかがやかせて、やりをとりだしました。
あおいけもののほんのうは、たたかいたくてうずうずとうずいていたのです。

どがん、がっしゃん!

くろいけものが、いっぱつなぐりつけるたび、りんのおうちのげんかんがはかいされます。
あおいけものはびんしょうに、そのいちげきをよけました。そして、するどいいちげきを
あたえるべく、すきをねらっていたのでした。

どががん、どっかーん!!!

さらに、げんかんははかいされます。げたばこのうえにかざってあったろいやるこぺんはーげんの
うつくしいとうきのにんぎょうはあっというまに、こなになりました。

「だーーーーーーっ!!!なんなのよ!!いったい!!!」

げんかんさきにやった、あおいけものがかえってこないばかりか、ものすごいおとがするので、
しびれをきらしたりんがげんかんにやってきました。するとそこには、めをおおうばかりの
さんじょうが…いかりのあまり、がんとでもぶっぱなしてやろうかと、りんがそのげんいんを
みきわめようとしたしゅんかん。りんのひとみのなかに、こあくまのようにわらう、ひとりの
しょうじょのすがたがみえました。

「いりやすふぃーる…」

そして、りんのくちびるがそのなをつげるよりもはやく、りんはそのしょうじょがじぶんにむかって
じょうきゅうのまじゅつをしかけたことにきがついたのでした。
 
















#18

りんは、あまりにとつぜんのできごとに、めをみひらいたまま、なにひとつ
うごくことができません。ただ、めをみひらいたまま、ひとつのことをおもったのでした。

「ああ…」

わたしは、こんなところでしぬのだろうか。わたしは…あいつに…まだあやまってなかったのに。
りんは、そのしゅんかんにそなえ、みひらいていためをとじました。
そして、ちいさなこうかいをむねのうちにかかえ、そのときをまちました。

あおいけものは、りんをたすけようとふりむきました。しかしめのまえのくろいおおきな
けものにきをとられていたせいで、すこしたすけにいくたいみんぐをいっしてしまったのです。
いまからりんのまえにとびこんでも、まじゅつからまもってやることができません。

「ちくしょう!」

あおいけものが、おもわずそんなことばをさけんだんしゅんかん、いちじんのあかいせんぷうが
いりやのまじゅつよりもはやく、あおいけもののわきをすりぬけ、りんのまえにたちはだかった
のでした。つぎのしゅんかん、まじゅつがひっとしたにぶいおとと、おとこのうなりごえが
りんのいえのげんかんさきにひびきわたりました。

「あーちゃー!!!」

りんはおもわず、こえをあげます。そうです。あーちゃーがりんのみがわりになって
いりやのまじゅつのたてになってくれたのでした。



















#19

「…っつ。どうやら、ぶじのようだな。りん。
 それにしても、てきをげんかんさきにまねきいれるとは…あいもかわらず、ぬけている。」
「うるさいわね!あんたが、いえでなんてするのがわるいんでしょう!」

あーちゃーはりんにせをむけたまま、かたひざをつき、みけんにちからをこめ、
ばくえんのさきをにらみ、てきのしゅうげきにそなえました。
しかし、ばくえんがぬぐいさられたあとに、すがたをあらわした
いりやは、すこしつまらなそうなかおをして、かたをすくみました。

「きょうはごあいさつにきただけなのに。なんか、つまーんなーい。
 しかも、りんのくせに、けもにをにひきもかってるなんて、ずるーーい。」

さいごに、いりやはほおをぷくーーっとふくらませると、なにかはこをなげつけて、
ばーさーかぁーをひきつれ、たちさりました。
あおいけものは、そのはこにちかよると…ごでぃばとかかれていました。
どうやら、いりあはほんとうに、りんにごあいさつにきただけのようです。

「っったく。なんだったんだよ、あいつはよー」

あおいけものは、かるくしたうちすると、りんとあーちゃーのほうへふりむきました。
そのしゅんかん、あーちゃーのきんちょうのいとがきれたのか、かすかにうなりごえを
あげると、ばたんとおおきなおとをたてて、あーちゃーはたおれてしまったのでした。

















#20

「あーちゃー!あーちゃー!!」

りんは、いそいであーちゃーをだきしめました。しかし、なんどゆさぶっても、
あーちゃーはぴくりともうごきません。りんは、りょうほうのひとみになみだを
ため、きつくあーちゃーをだきしめました。

「………。」

あおいけものは、りんとあーちゃーのようすを、そのばにたちすくんでみつめていました。
そして、こころのなかで、あるひとつのことをかんがえていたのでした。
けものは、せいはいというすばらしいえさざらをえるために、ますたーといっしょにたたかいます。
だから、けものはますたーのことをいっしょうけんめいまもってあげます。
だけど、あおいけものは、めのまえのてきとたたかうことにこころをうばわれ、
りんのことをまもってあげることができなかったのです。

「でも、あかいやつは…」

そう。あーちゃーはおうちをでていったのにもかかわらず、りんのことをまもるために
いのちをすてるかくごでたてになったのです。あおいけものは、どっちがりんのおうちのけもの
にふさわしいか…そのこたえはかなしいことでしたが、わかってしまったのです。
いをけっしたあおいけものは、そっとりんにちかづきました。

「あんまりなくなよ、おじょうちゃん。かわいいかおがぶさいくになるぜ。」

そういうと、あおいけものは、りんのなみだをぺろりとなめました。
そして、ことばをつづけます。

「きょういちにち、そいつのことをずっとなでなでしてやれよ。
 そうしたら、あしたにはきっとめをさますから。ついでに、くびわもつけてやると
 いいぜ。いつだってけものは、ますたーにくびわをもらうとうれしいもんなんだ。」
「ほんとう?あーちゃー、たすかる?」
「ああ。おとこににごんはないぜ。だから、もう、なくな。」

あおいけものは、さいどりんのなみだをぺろりとなめました。
りんはちょっとくすぐったそうに、ほほえみました。
そのりんのちいさなえがおをみとめると、あおいけものはあーちゃーを、りんといっしょに
おうせつまのそふぁーにはこんでやったのでした。


















#21

あおいけものが、あーちゃーをそふぁーにねかせると、りんはさっそくあーちゃーの
せなかをやさしくなでなでしはじめました。あおいけものは、そのようすをすこし
かなしいきぶんでみつめ、そして、こっそりこっそりとおうせつまをあとにしました。

ながい、ながいよる。

りんは、あーちゃーのせなかをやさしくなでなでしつづけました。

やがて、まっくらなよるのやみはあさのひかりにてらされて、たちさっていったのでした。

そして、ちゅんちゅん、と、ことりのこえがきこえます。

あーちゃーはことりのこえと、まばゆいあさのひかりと…そしてあたたかいなにかの
おもみによってめをさましました。

「む…」

あーちゃーはおもたいまぶたをゆっくりとひらき、あたりをみまわしました。
そして、きのううけたきずが、もはやあとかたもなくなおっていることにきがつきました。
きっと、いまはあーちゃーにたおれかかるようにしてねむっているりんが、
よるをてっしてなおしてくれたにちがいありません。

「まったく、よけいなことを。」

あーちゃーはおうぎょうにためいきをつきながら、そんなことばをうそぶきました。
しかし、くびにかんじるかすかないわかん…そう、まっかなくびわのかんしょくが
たまらなくここちよく、おもわずかおがほころんでしまうのを、とめることができませんでした。

















さいごのおはなし


「あーちゃー。あさのこうちゃはまだかしら。」

あれから、すうじつご。すっかりぐあいのよくなったあーちゃを、りんは
いつものように、あごでつかっています。あーちゃーも、くちではもんくをいいながら、
ききとしてりんのためにこうちゃをいれています。

がりがり、がりがり。

「あら、なんのおとかしら。」

おうせつまのそふぁーでねそべっていたりんが、なにかのおとにきづきました。
どうやら、そとのあみどが、がりがりとおとをたてているようです。
ふしんにおもったりんは、すこしだけ、あみどをあけてみました。すると。

「ったく。いつもながら、おっせえなぁ、おじょうちゃん。」
「あ!あんたは!!」

せまいすきまから、ものすごいいきおいで、あおいけものがりんのいえにあがりこんだのです。

「あんた、おうちにかえったんじゃなかったの?」
「ん、まぁ…いろいろと、けものにもじじょうがあるんだよ。
 それより、はらへったな。なにか、くわせてくれよ。」
「…!!!きさま、そこでなにをしている!!!」

りんのおおきなこえにきがついたあーちゃーが、おうせつまにとびこんできました。
そして、りんのあしもとにすりよるあおいけものをみとめて、はげしくいかくしはじめました。

「まーまーそんなにおこるなよ。それに、おまえ、これがみえないのかよ?」
「なにがだ!!」

あおいけものは、じぶんのくびわを、あーちゃーにみせびらかします。
あーちゃーはそのくびわをみると、むぐーーーとだまりこんでしまいました。

「とりあえず、すみこみのこまづかいけもののざはおまえにゆずってやるよ。
 おれはこれから、かよいのけものになるんだ。すきんしっぷせんようのな。
 だから、はやくおれのぶんも、あさごはんよういしろよな。」
「くっ…なにさまのつもりだ!なんか、いってやれ!!りん!!!」
「んーまーでもねぇ…」

あいだにはさまれたりんは、ちいさくかたをすくみ、あおいけもののくびわをみつめました。
そう、あおいけもののくびわには…

『りんのらんさー』

と、おおきく、けもののなまえがかいてあったのでした。

おしまい。