5.家族



「ね〜将臣く〜〜ん。聞いて欲しい事があるんだけど。」
「パス。」
「ちょ、即答却下なしじゃない!?」


ブーブーぶーたれる望美の手が、将臣が食べていたスナック菓子の
袋に突っ込まれる。処は有川家、応接間のツーシーターのソファーの上。
だらだらテレビを見ていた将臣の横に、どかりと望美が座り込む。
そして、将臣の菓子を鷲掴みにすると、口いっぱいに詰め込んだ。


「うわー、豚になるぞ。つかー現時点でさえ樽にちけぇ…ぐほっ!」
「ちゃんと話聞いてくれない将臣君が悪いんです〜。」


もごもご口を動かしたまま、望美は将臣の鳩尾に鉄拳を食らわせた。
二つ三つと咳き込みながら、将臣は望美の話を聞く場合と聞かない場合の面倒
臭さを天秤にかけて、諦めの溜息混じりに望美の方に向き直った。


「…しゃーねーな。とりあえず話聞くから撲るなよ。」
「うん!有難う!!っていうか、最初から話聞いてくれればよかったのに!」
「…はいはい。で、何?」
「うーーんとね。今度九郎さんのバースディだから、何かプレゼントを
 あげたいんだけど。何あげると喜ばれるかな〜と思って。青龍繋がり
 で将臣君に相談!」
「青龍繋がりってアバウトだなぁ…」
「え、義兄弟みたいなもん…ということは家族って言っても差し支えない
 ぐらいの付き合いじゃないの?」
「まぁ、アイツとは結構気は合うけど…つか、家族でも方向性超違うヤツ
 いるし。何やれば喜ぶかなんてイマイチわかんねぇよ。」
「困ったなぁ……」


先ほどまでは横暴な態度で将臣のことを撲っていた望美だったが、うって
変わって本当に困惑している表情になる。将臣は心底やれやれ…な気分
ではあったが、望美曰くの義兄弟九郎と家族ぐるみの付き合いの望美の為に
一肌脱いでやることに決めた。


「モノとしては何が喜ばれるかは検討つかねーけど、一般的男子として
 ナニされたら喜ぶかは、そこそこ検討つくぜ。」
「えー本当!なになに!?将臣君、教えて!!」
「じゃー耳かせ。耳。ごにょごにょ…」
「え……超ベタじゃない…?」
「九郎はベタでいいと思うぜ。まぁ、どうするかはお前次第。」
「ううううううう……どうしよ…。」


困惑を通り越して、沈痛に近い面持ちになる望美を尻目に、将臣は満面の
笑みでスナック菓子を頬張るのだった。


そ し て 当 日 。


「急に呼び出して、何用だ?」


兎に角大事な用があるので家に来て欲しい、と望美に呼び出された九郎は
しかめっ面をしつつも、心は裏腹にドキドキソワソワしていた。
玄関先ですむ用事かと思えば、望美の部屋まで上がってきてほしい
のだという。なんの躊躇いもなく望美の部屋に入った九郎だったが、
いざ入っていみると、途端に体温が熱くなる様な錯覚に襲われた。

いつもいる部屋(有川家に間借り中)や、有川兄弟の部屋は男兄弟という
こともあり、殺風景、もしくは男臭い感じの部屋なのだが、翻って望美の
部屋は愛らしい小物があり…そして、なんだかいいにおいがする。

望美の部屋の香りにくらくらしつつも、九郎が部屋で暫く待っていると
やっと望美が部屋に入ってきた。そして、九郎がせかすように再度
「用事は何だ?」と問うと、望美は俯きながら小さな声で答えた。


「九郎さんに、バースディプレゼントあげたいと思って。」
「ばーすでいぷれぜんと?」
「うん、こっちでは生まれた日に贈り物をする習慣があるの。」
「そうか…わざわざ俺の為にそんな事を…礼を言う。で、
 そのぷれぜんととやらはなんなんだ?」
「こ、これ!!」


そういうと、望美は着ていたワンピースのファスナーを神速で下ろすと
するりと脱いだ。九郎はその一瞬の出来事に、声を発することはおろか、
口をあんぐりあけたまま…目は完全に、泳いでいる。


「…ま、将臣君のバカっ!!九郎さんドンビキじゃないっ!!!!」


望美は恥しさの余り、脱いだワンピースをこれまた神速の勢いで身に付けた。
そう、望美は…九郎の誕生日仕様として「欲望」と名の付いた、
スケスケ・ひらひら・ちょー布がちっちゃい下着を身に着けていたのだった。
将臣の「いやースケスケ下着で挑発されたらエロくって最高でしょ。
やっぱ九郎もオトコノコだから。清純派と思いきや、結構ベタでエロい。」
という参考意見に従って、ランジェリーショップで一時間もうろうろ
迷った挙句買ったのだ。

それだというのに…九郎は今だ口をあんぐりあけたまま、一言も言葉を
発しない。私の時間とお金と…九郎さんにドンびかれた精神的苦痛の
慰謝料、将臣君からぶんどらなくっちゃ!と、望美が心に決めた瞬間、
九郎がやっと口を開いた。


「ば、ばーすでーぷれぜんととやらは、その、年に一回しか
 もらえないのか!?」
「え、ええ。まぁ、普通生まれた日って年に一回ですから。」
「じゃ、じゃぁ、今のは次は来年まで見られないということか!
 そ、そうなのか!!望美っ!!!!」
「え、ええ?」


望美の腕を掴み、質問してくる九郎の眼差しは本気も本気、超必死だった。
ってことは…その…ドンビキしてたわけでは、ない…のかな?
そんな気がしてきた望美は、改めて、九郎にプレゼントの感想を聞いてみた。


「あの…九郎さん…さっきの。」
「な、なんだか…見るべきところが多すぎて、良く分からなかった。
 しかし…次は来年にしか見られないのだろう?」
「…そんなにみたいなら、また…あとで見せてあげてもいいですよ。
 だって、まだ今日は…九郎さんの誕生日、だから。」
「ほ、本当かっ!!!」


九郎の瞳が燦然と輝きだす。そんな九郎の瞳をみて、望美は「さすが
青龍繋がり…将臣君、ナイスアシストっ!」と、心の中で小さくガッツ
ポーズをするのであった。




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