10.声音



「案外胸ちいせぇのな。」
「ちょ、それ本人を目の前にして言っちゃう?」

少しばかり不用意な発言の所為で、望美の声に怒りの色が含まれる。
そんなことを言うつもりなど毛頭無かったのだが、何時もと違う
状況が、将臣を無駄に饒舌にさせた。

吐息の熱さえ感じてしまいそうな程の距離感。
こんなに近くに互いの熱を感じるなんて…今まで、無かった。



とある日曜日の午後。家人は出払い、有川家には将臣以外の
人間はおらず。そこにふらりと望美が遊びに来た。
なんとなく、将臣の部屋に行くことになり、そしてなんとなく、
二人して将臣のベッドに腰掛けてDVDを見ることになった。

なんとなく、幼馴染だから。
なんとなく、ずっとそばに。

ずっとそう思っていたはずなのに、将臣は異なる時空に飛ばされて、
「なんとなく」というものが、なんとも不確かであやうい関係だということ
を思い知らされた。そして…自分は望美と「なんとなく」ではない
関係を望んでいるのだと、確信させられた。

DVDを見終わっても尚、将臣の部屋のベッドに二人して身を寄りそう
ようにして座る。

将臣の手がすいと伸び、望美の肩を抱き、そして、その柔らかい丸みを
帯びた腰のラインを滑るように撫でる。しかし、望美からの抵抗は無い。
将臣は一段階レベルを上げて…望美を自分の膝の上に抱き寄せた。
やはり望美は抵抗無く、将臣に抱きしめられて…今に至る。



「………ワリィ…つうか、なんなんだよ、お前のその平常っぷりは。」
「…そうかな?なんか将臣君が妙に焦ってるだけだと思うんだけど。
 声、ちょっと裏返ってるよ。」
「なっ!そんなことねーだろうが。」
「ほら、裏返ってる。」

くすくすと笑う望美の様子に、思わず将臣は脱力した。こんな風に
身を寄せ合っても、望美にとって自分はなんとなく幼馴染だから
まぁ、いいか〜と言ったところなのだろう。思わず望美を抱きしめて
いた腕の力を弱めた瞬間、望美の声音が変った。

「ちゃんと言ってくれるの…待ってるだけなのにな。」
「…え……マジ、で?」
「………うん。」
「ああ…ワリィ………その……。」

将臣が望美の耳元に唇をよせ、小さい声ながらもはっきりと望美に
聞えるように囁いた。


「お前のことが…好き。」
「うん…私も。」
「じゃぁ…目、つぶれ。」
「うん…。」


目を瞑った望美の唇に、将臣の唇が重なる。やがて唇だけでなく、
心も体も…二人は深く深く、重ねあうのだった。




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