短信



若宮さんと最後にお話をしたのは、私だったのかもしれません。



『壬生屋、一分だ。一分でケリをつけろ。それ以上はフォローできん。』
『でも…!!』
『大丈夫だ。お前の腕なら何とかできる。いくぞ!!』


その声と共に若宮さんの援護射撃が始まりました。私はその瞬間、意識を全力投入して刀を振るい
ました。ミノタウロスの直接攻撃を、左手を潰しながらガードし、右から太刀を一閃。夢中で振るった
刀がミノタウロスの首を刎ねたのが、丁度一分後。


『若宮さん!あり…』


ミノタウロスの巨体が幻に返り、若宮さんにお礼の言葉を述べようとした瞬間。私はヘッドセットの中
から見てしまいました。若宮さんが…ミノタウロスの群れに向かって、真っ直ぐ歩みを進めていく
姿を。そして、分かってしまいました。何故一分しかフォローできないなんておっしゃったのかを。


『若宮さん…あなたは。』


残りの時間全てを…あなたの愛しい人の為に差し上げてしまったのですね。
敵陣真っ只中に向かう、その背中にはなんの迷いもなく、ただ真っ直ぐに歩んでいかれました。
そして…あなたの愛しい人は生き残り、あなたは帰ってきませんでした。
残された、愛しい人…新井木さんは、悲嘆にくれていました。かけてあげる言葉が無いほどに。


皆さんは、新井木さんをかわいそうだといいます。

だけど。

だけど、私は。

新井木さんのことが、羨ましいと思ってしまったのです。


自分の命を賭してまで、守りたいと思われた新井木さんのことが。
それだけ、一人の男の方に愛されていたという事実が。

羨ましくって仕方が無いのです。


若宮さんを失った新井木さんの痛みや、悲しみは、私にも幾分か理解できます。
兄様が…幻獣に殺されて、まるでお人形さんのように飾られて発見されたあの日。
怒りと、憎しみと、恐怖と、悲しみで、私の心は張り裂けんばかりでした。
兄様を失った、喪失感。何も出来なかった不甲斐ない自分への憎悪。まるで、鉛を飲み込んだ
かのように、重く沈みこむ心。


それでも。

それでも、なお。私は。

新井木さんのことが、羨ましいのです。

あんな風に…残りの時間を全てやってしまっても、いい。そう思われるほど、深い愛を。

受けてみたいと思ってしまうのです。


しかし…こんなにも愚かな私は、きっと、誰からもそんな愛を受けることなど無いのかもしれません。
だからせめて、私は…もし、その時がきたら、若宮さんのように…深い愛を、残したいと思うのです。


ただ、真っ直ぐに。迷うことのない、深い愛を。






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