取引には対価を



売店で焼きソバパンを買うとしよう。
どんなに売店のお姉さんと仲が良かったとしても、お金を持っていなければ
お姉さんはきっと僕に焼きソバパンを売ってはくれないだろう。

滝川が登校初日に牛乳とサンドウィッチを僕にくれたのだって、戦車の技能資格
すら持たない滝川が、とりあえず僕とうまく友好関係を築こうとするための出費に
すぎない。…何かを得る為に、お金を払う。取引とはそういうものだ。


取引には対価を。

だとしたら僕は。

君に何を支払えばいいのだろう?


「アツ…シ…厚志!聞いているのかっ!!」
「え、ああ。ごめん……なんだっけ、舞?」
「神経接続の数値がずれている。もう二度目だぞ」

思考の海に沈んでいた速水が、コントロールパネルから顔を上げると、
仁王面の舞の顔が極間近に見えた。怒っている顔もかわいいな、と不謹慎な考えが
速水の脳裏によぎった瞬間、舞のこわばった眉根がさらにきつくなる。

「厚志。やる気がないのならば、作業はここで終了とするぞ」
「本当にごめん……やる気がない訳じゃないんだけど、ちょっとわからないことが……」
「……そうだったのか。早くいえばいいものを。そんなことで遠慮する必要はないぞ。
 お前は私のカダヤなのだから。で、どこの接続数値だ?」
「いや、その、接続数値じゃなくって。そのーーー。うん、僕は舞に何を返してあげれば
 いいのかなーって。悩んじゃって」
「????私は厚志に何かものを借りた覚えはないが?」
「ものではないんだけど」

そういって一度俯いた速水は、心を決めたのか、ゆっくりと顔を上げると、
芝村の目を真っ直ぐに見つめて言ったのだった。

「舞といると、僕幸せなんだけど。なんか凄く心が満たされるっていうか…
 周りで人が死んだとしても、舞さえ無事なら世界が薔薇色に見えちゃうぐらいなんだけど。
 こんな気持ち、舞と一緒じゃないと感じないし、舞からじゃないと与えられない。
 こんな大きなものを貰っちゃっているのに、僕何も舞に返してない気がして不安なんだ」

至ってマジメな表情で、一気に吐き出された速水の言葉に、芝村は一瞬唖然とした。
しかし、次の瞬間芝村的素早さで速水の言葉を理解した芝村は…頬が染まる。

真っ赤に、真っ赤に……頬が染まる。

「ば、馬鹿者!!それぐらいで不安に思ってどうする!お前は私のカダヤ
 なのだろう。それぐらいの愛ごにょ…情ぐらい無料で受け取っておけっ!!!」
「え、え?そんな、タダでもらっちゃっていいの?だったらよかった……ねぇ、じゃあ
 もっともらっても舞は怒らないよね?」

速水の言葉に怪訝そうな表情を見せた芝村だったが、すぐに速水の意図を理解する。
そして、盛大なクレームを口にしようとしたのだったが時既に遅く。芝村の口は速水の
優しい口付けに塞がれてしまったのだった。



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