天が墜ち、地が割れ、海原が地を満たす、その刻まで。
我は名と命にかけて誓約する。



Geis(中編)



泰山の前に佇む男が一人。

男…ランサーは空を見上げる。とりあえず、空が落ちてくる気配はない。


「………。」


そんなランサーを一瞥し、凛は宣言する。

「多分、大地が割れたり、津波が来たりも無いと思うわよ。諦めて入りなさい。」
「…やっぱりか。」

ランサーは一つ溜息をつき、凛の後に続いて泰山の店内に入っていった。


「いらっしゃいませアル〜!」

いんちき臭い店主が威勢の良い声をかける。凛は店主が注文を取るよりも早く、「いつものヤツ」
とオーダーを入れた。


「おい、おい。メニューも選ばせてもらえないのかよ?」
「…どれたのんでも、同じだと思うし。」
「………確かに。」

暫くたって、例のマーボーと…何故かマンゴープリンが一つ運ばれてきた。しかも、マーボーは
レギュラーサイズに比べて尋常でなく量が多い。牛丼でたとえるならば、並と特盛ぐらいの差が
ある。店主はその特盛マーボーをランサーの目の前に置き、いわくありげに笑った。


「頑張るアル!男気見せるアル!!」
「は?」

小首をかしげるランサー。

「あーちょっとおじさん、コイツは違うのよ!」

凛は慌てて店主に言う。しかし、店主はそんなことお構い無しのようで、「いいアル、分かってる
アル!」とやはりいわくありげに笑いながら厨房の奥へと引っ込んでいった。


実は、凛はこの泰山をある理由の為に良く利用していた。

…それは、題して。
『これを食ったら百万円じゃなく遠坂凛、あなたとお付き合いしても宜しくってよ』作戦である。
学園のアイドル、遠坂凛に交際を申し込む無謀な輩は案外多い。大抵の場合は丁重にお断りして
事なきを得るが、一部どうしても納得がいかない輩が出てくる。その時にこの泰山を利用するのだ。
サーヴァントさえも嫌がる、泰山のマーボー。普通の人間が完食できるわけが無く。
今まで数多の敵を完膚なきまでに粉砕してきた、最凶マーボー。少なくとも、凛はここのマーボーを
嬉々として完食した男は、例の似非神父・言峰綺礼しか見た事が無い。そして、そんなもんを
ゲッシュを悪用してランサーに食わせようという腹積もりなのである。


「さぁ、召し上がれ♪」

凛は、この以上はない、満面の美しい笑顔でランサーに声をかける。一方ランサーはと言うと、
既に香辛料の匂いで頭がクラクラしているのか、どこか焦点の合わない目をしている。


「…ち。男に二言はねぇよ。」

ランサーは意を決して最凶マーボーに手をつけた。




………一時間後。



人気の無い公園のベンチで、無心にソフトクリームを舐める男と、その横で笑いながらその様子を
見守る女がいた。ランサーと凛である。


「うふふふ。」


何度思い出しても可笑しい。凛はランサーのマーボーの食べっぷりを思い出し笑いする。

まず第一に、一口食べて蓮華を落とした。
第二に、そのあと5分ほど放心していた。
第三に、凛と店主の視線に気が付いて、物凄い勢いで食べる事を再開した。
第四に、汗だか涙だかなんかわからん液体を大量に流しながら食べていた。
第五に、最後のほうは体が震えていた。
第六に、それでも、完食した。


そう、ランサーは最凶マーボー(特盛)を完食したのである。見事に男気を見せたのである。
その男気をたたえて、凛はお口直しのために高級ソフトクリームをランサーに奢ってやったのだった。


ソフトクリームを食べ終わったのか、ランサーは指についたクリームをペロペロと舐めている。
こいつ、結構子供っぽいところあるのかも…なんて凛が思っていると、ランサーは急に凛の方
を向いて、その瞳をじっと見つめてきた。


「な、何よ!殺る気!?」

つい岡持なんて持っていたので気安く声を掛けてしまったが、相手はサーヴァント。
その気になられたら、凛なんて瞬殺されてしまう。凛はポケットに隠し持っているルビーに
意識を飛ばした。ものは小さいが相当量の魔力を込めてある。アーチャーを呼び出すぐらいの
時間稼ぎなら出来るはずの代物だった。


「そーじゃなく。ご褒美、くれ。」
「えーーー!?」

予想外の答えに、驚く凛。つか、今ソフトクリーム食わせたばかりだろうが。しかし、ランサーは
本当に、『なんかくれ、なんかくれ、なんかご褒美くれ』という真っ直ぐな視線を送ってくる。


「ご褒美って…。」
「魔術師ってのは、等価交換が基本だろう?俺を嵌めて十分楽しんだんだから、
 俺もなんかもらって問題はねーだろ?すっげー苦痛だったし、泰山のマーボー。」
「うっ…。」

思わず、言葉に詰まる凛。その様子をランサーはにやにやしながら見つめている。

「…じゃぁ、何が欲しいのよ?」
「欲しいというよりかは…ん…髪に触りたいなぁ。」
「はぁ!?」

予想外の答え、パート2。凛は驚きのあまり、はぁ!?の後に続く言葉が出てこない。

「なんだ、ダメか?じゃぁ、ポケットに隠し持ってるルビーくれ。さっきので結構魔力
 つかったし。食って魔力の足しにでもすっから。」
「それは、ダメ!!」

即答する凛。ものは小さいが、ルビーは、宝石の中でも魔力の吸収相性がよく値が張る。
中に込めた魔力はともかくとして、こんなことのために、ルビーをまさに捨石にすることは
金欠の凛には出来る訳が無い。しかも、ルビーを隠し持っていた事がばれてるし。
凛は諦めて、ランサーの最初の提案を飲む事にした。ルビーの在り処がばれている以上、
下手にランサーに殺る気をだされたら時間稼ぎも出来ない。


「じゃぁ、ちょっとだけ。」

しぶしぶ同意した凛に、ランサーは嬉々として近づいたのだった。




next

go to fate top

go to home