ほら、なんつうの、アレだよ。アレ。
超イイとこでゲーム止まっちまったりすることあんじゃん。
あー、そうそう。それ。バグだわ、バグ。
早い話、バグみたいなもん。
Geis（アナザエンド編）
無骨な手が、凛の髪を撫でる。最初は、控えめに。そして、次には大胆に。
凛の滑らかな黒髪は、まるで絹糸のようにランサーの指の間を滑り落ちる。
そして、滑り落ちたはなから、微かに香る凛の魔力。髪は女の命とはよく言ったもので、
凛の髪も魔力と言う名の生命力に満ち溢れていた。
「んーやっぱいいなぁ…」
ご満悦でランサーは凛の髪に口づけする。水密桃のみずみずしい香り。
凛の魔力をたとえるならそんなところか…俺はもうちょい熟れ熟れのほうが
好みなんだけど…でもこれはこれで捨てがたいなーなんて、すっかり敵対する
マスターとサーヴァントであることを失念して浸っている。
「てゆーか、髪にキスなんて無しでしょ！！！」
「んあ？どういう風に触るかなんて、俺の自由だろ？」
「くっ…。」
確かにランサーの言う通りだった。契約とは、具体的に細かく決めておかないと後で
痛い目にあう。この場合もしかり。凛は焦るあまり、『どのように』と『いつまで』ということを
はっきりさせないまま、ランサーの条件を受け入れてしまったのだった。
なので、髪にキスされようが文句が言える筋合いではない。しかも、『いつまで』も決めて
おかなかったので、ランサーが飽きるまでされるがままなのである。
「…くっそー。」と心の中で、自分のポカっぷりを呪う凛。本当に大切なときに限って
抜けているんだからやりきれない。ついでに今のこの体勢もやりきれない。
ランサーが凛の真横に密着しているのである。もっと離れろと言ったものの、
そんなの触りにくいと一蹴され今の状態になっている。髪にキスなんてしてるから、
ちょっと振り向けばランサーの顔に触れてしまうぐらい身近で。視線のやり場に
困ってしまう。只、真正面を向いているのは何か精神的にランサーに負けた気がする
ので、凛は仕方なくランサーの肩の辺りに視線を合わせた。
ランサーが身に付けていたざっくりとした肌合いのTシャツは、襟ぐりが大きく、
首筋から鎖骨へ連なる筋肉を美しく浮き出させていた。そして、その肌は抜けるように白い。
いつも見慣れている男との違いをつぶさに感じ取って、凛は思わず独りでに赤面してしまう。
やっぱランサーの体をみてるとアレだわと思った凛は、ランサーの身に付けていた
Tシャツの方に着目し始めた。
「この髪留め、邪魔だな。外すぞ。」
「えーちょっと。そんなオプションついてないわよ！！」
思わず、凛が抵抗しようとしたその時。ランサーの着ていたTシャツのタグがちらりと
目に付いた。イタリアの某高級ブランドだった。うわーいいもん着てるなーと意識が
一瞬緩んだその瞬間。
「…ん…動くなよ。」
ランサーが凛の耳元でささやいた。それはランサーにとっては、無意識のことだった。
しかし、あまりにも凛の魔術防御が疎かだったのと、ランサーが案外魔術が
使える事を失念していたことが徒になった。そう、ヤバイ！と思った時にはすでに遅し。
凛の体はランサーのコトノハに縛られて動けなくなっていた。
本来、束縛の魔術は成功率がそう高いものではない。効果が大きい分呪文の
詠唱時間がかかることと、そんな詠唱時間があれば、術を返す手立てを立てられてしまう
ことが多いからだ。詠唱時間が長い、ということはそれなりに魔力をつかうと言う事。
逆に、一気に大量の魔力を流せれば短時間で効果がある術を相手にかけることが
出来ることでもある。まさに今の場合がそれだったのだった。人間では無理な魔力量でも、
サーヴァントなら話は別だ。しかも、無意識。単純で強い願いは、膨大な魔力で
短時間に具現化した。
「ん…どうした？」
急に抵抗を止めた凛を不審がって、ランサーは凛の顔を正面から見つめる。
そして、その瞳の表情と…こんな間近まで顔を寄せてもピクリともしない凛の様子から、
すべてを悟った。
「ははーん。体、動かないんだろ？」
「…。」
まるっきり声が出せないわけではないが、凛は無言を通す。わざわざランサーが
喜びそうなことを自分の口から言ってやるつもりは無かった。しかし、ランサーは既に
状況を見抜いており、もーのーすごーく嬉しそうにニヤついている。
「ほんっと、いけ好かねぇ野郎だけど、今日はマスターに感謝だな。」
ランサーは満面の笑みでそう言うと…間髪おかず、凛を抱き寄せ自分の膝の上にのせる。
そして、躊躇うことなく凛にキスをした。最初は軽く、凛の唇の質感を味わう。
「ちょっと！！こんなの等価交換じゃない！！！」
思わず絶叫する凛。
「まぁ、そうだけど。でも目の前に落ちてるチャンスを見逃せる性分じゃねえっつの。」
あっさりいいきるランサー。
ああ確かに私もそうだな、と一瞬納得しかけた凛であったが、狩るものと狩られるもの、
ランサーと凛とでは立場が大幅に違う。なんとか、ランサーから逃れようと身を
よじろうとするがまったくもって体が動かない。
「まぁ、諦めな。」
「…んん！」
ランサーは小さく笑って、キスを再開する。
抵抗ができない凛を挑発するかのように、ランサーはゆっくりと舌を入れ、蹂躙する。
凛の唇はランサーの唾液で滑り、艶やかに染まる。凛が唇に意識を奪われている隙に、
ランサーの右手は凛の形のよい乳房を服の上から弄った。
「あ、イヤ…」
「んー何がイヤなんだ？今日の俺は未だかつてないぐらい優しいぞ？」
布の上からでも分かる、凛の胸の尖り。ランサーはにやりと笑い、愛撫を続ける。
やっと唇を開放したかと思うと、ランサーは舌を尖らせ、舌先を首筋に這わせる。
ゆっくり、柔らかに凛の首筋を愛撫する。ランサーの与える刺激の一つ一つが凛に
耐え難い感覚を呼び起こさせる。拒絶しなくてはならない…
だけど。
「あぅ…ん…」
漏れ出す、呻き。
「んん…いい声だな。お嬢ちゃん、結構イヤラシイのな。」
「そ、そんな訳ない……うぅ…あ……。」
たとえ体が動かなくても、凛は精神的に抵抗した。しかし、ランサーの与える愛撫は
その抵抗さえも突き崩そうとする。強い刺激が与えられるたび、凛は眉根を顰め、
その刺激に耐えようとした。ランサーはその耐え、喘ぐ凛の表情を満足気に見つめる。手
に入れた獲物を最大限に嬲りたい…ランサーの思考はその一点に集約する。
だから、ランサーは凛の束縛の魔術を解いてやった。
「あ！！」
ランサーが一つ指を鳴らした瞬間、凛は束縛から解放された。その瞬間、
凛は精一杯の魔力を両手に込める。そして、ランサーを突き放とうとその胸板を押したが…
微動だにしなかった。
「くっ！」
思わず凛はランサーの咽喉元に噛み付いた。しかし、ランサーは怯むことなくそのまま
凛に噛み付かせている。次第に凛の口の中にランサーの血の味が広がる。
その血の味は鉄の味ではなく…なんだか微妙に甘いような気がした。
そういえば、ランサーは北欧の神の血が混じってるんだけ…そんな思考にたどり着ける
程度に凛は我を取り戻した。そして、ランサーの意図を理解する。
「ちっ！！ワザとか！！」
「あはは。気づかれたか。」
相手はサーヴァント。高々束縛をとかれたぐらいで、逃げ出せるような相手ではない。
それでも、束縛を解かれた瞬間逃げ出せるとつい思ってしまったのだ。そして、
そんな自分の間抜け面をランサーに思いっきり見られていたのかと思うと…凛は
自分自身のポカっぷりを呪うほかなかった。咽喉元に噛み付いたのもしかり。
ランサーにはその行動さえも予想がついていたのだろう。でなければ凛が噛み付いた
ぐらいで、サーヴァントであるランサーの体に傷をつけることはできない。わざわざ
魔力を抑えて防御力を低くして噛ませたのだろう。
「せっかくの歯型もすぐに消えちまうんだよな…」
ランサーは凛に噛まれた咽喉元を愛しげになでる。そして、正気を取り戻して野獣の
ような眼光を放つ、凛を見つめる。ああ、いいな。それ…少し抵抗してくんないと…
「じゃぁ、続き開始。」
「させるか！！！！」
ランサーは凛の腕を取り、さらに腰を強く抱きしめ押し倒した。そこまでは、
ランサーの思惑通り。だが、その先は予想外の展開になる。
「うわぁ！耳はやめろって！！」
「ふぅん。敏感なんだ。」
凛がランサーの耳に息を吹きかけ…その耳を舐めたのだった。正直、もうランサーから
逃げる術はない。結果的にそういう事になるとしても…ただ、ランサーに一方的に
組み敷かれ陵辱されることはどうしてもイヤだったのだ。それは、負けだ。凛
の闘争本能と負けず嫌い王の思考はそう囁いた。だったら、こっちから攻めればいい。
その行為に勝ち負けがあるかどうか判断できなかったが、少なくとも凛のプライドと…
精神構造は攻めるが勝ちだと判断した。
だから。
「いや、本当に…うぅ…」
凛はランサーの耳の中に舌を這わせる。そして、一通り舐め終わるとその耳たぶを
甘噛みした。その間、ランサーは凛のされるがままになる。時折ひどく感じるのか、
小さな声で呻き声をあげた。ランサーって結構…かわいいところあるかも…不意に
そんな思考が凛の頭にもたげた。まずい。この男は…私を犯そうとしているのに。
なんでこんな気持ちになるんだろう…
「うがー！！」
凛の愛撫に耐えられなくなったのか、ランサーは凛を力ずくで自分の体から引っぺがす。
そして、自ら仕掛けてきた女の顔を見つめる。組み敷かれながらも、
その瞳には確固たる強い光。それは、怯えて矮小になった獲物が持つものではなく。
…やべぇ。コイツ、本気…。
「…かわいいな。」
「ぶっ！！今更それ、言う？」
「し、しょうがないだろ！！今本当に思ったんだから！！」
思わず、唖然とする凛。犯しかけておいて今更かわいいもへったくれも無いと思うのだが…
未だこっちをじっと見つめるランサーの頬は、ランサー自身の発言の所為か少し赤い。
本人にとってはいったてまじめな発言なのだろう。ああ、コイツ…なんとなく、
許してしまいそうになる理由がはっきりと分かった。そうだ、コイツ…
「あんた、犬っころみたいね。」
「な、なんだと！！」
そうだ、犬っころだ。何もかにも直情的で、本能に忠実。でも、その意図に悪意はない。そして、
瞳は真っ直ぐと相手に向き、逃げはしない。それを単純なやつだといって笑うのは簡単だ。
でも、この真っ直ぐさは潔い。そう…うちにいる捻くれ者と正反対なのだ。だから…
「あんたもかわいいわよ、って言ってあげてんのよ。」
「なんだよそれ、訳わかんねぇよ。」
ふてくされるランサーの顔を見て、凛は思わず笑う。その凛の笑顔をランサーも、
まんざらじゃねぇなーという苦笑いで見つめる。
「あーもう。今日はやめやめ。」
「何、萎えちゃったの？」
「うっせ。そーじゃなく。ん…今日はさ、手ぇつけずに生かして帰らせてやるからよ、
その…一つ契約して欲しいんだ。」
「え？何？髪の毛はもう御免よ？」
「………。」
不意に黙りこむランサー。そして、真っ直ぐに凛の瞳を見て、言うのだ。
「次会うときまで、生きていてくれ。」
「…ランサー…」
ランサーはぎゅっと凛を抱きしめて耳元で囁く。
「んでもって、俺のマスターぶっ殺して、お嬢ちゃんのサーヴァントにしてくれ。」
「え…でも…」
「お嬢ちゃんなら、サーヴァントの二体位、契約できるだろ？だから、約束。」
「…天が墜ち、地が割れ、海原が地を満たす、その刻まで？」
「そう。その刻まで。名と命にかけて誓ってくれ。」
凛はランサーの瞳を見つめる。真っ直ぐな瞳を。あまりにも真っ直ぐすぎて…
「うん。」
凛は思わず頷いてしまった。
「よーし！！これでゲッシュ成立な！！！絶対だかんな！！！」
「あーでもちょっと…あんたのマスターぶっ殺すって…」
「うん。まぁ、難しいと思うけど。何とかがんばってくれ！！」
「た、他人事のように言うわね…あんた…。」
凛が思わず肩をすくめた瞬間、ランサーの気配が変わる。先ほどまで凛を抱きしめて
いた時の優しい気配とはまるで違う。傍にいるだけでビリビリと痛い、激しい威圧感。
ランサーが臨戦態勢に入ったのだ。
「ち。マスターが呼んでる…行かねぇと。」
「ランサー………。」
ランサーは微かに魔力を弱めて、凛の頭にポンと手を置く。
「ゲッシュ、ちゃんと守れよ。」
「そっちこそ。生きて私の前に現れなさいよ。」
「ふん。往生際が悪いのが俺のウリだからよ。任せておけ。」
ランサーは最後に凛の髪をさらりと撫で、その場から立ち去った。
その身には既に紺碧の甲冑、真紅の槍。
「天が墜ち、地が割れ、海原が地を満たす、その刻まで…」
凛はランサーと交わした契約を再度唱える。
きっと、叶えられることはないであろう夢物語のような約束。
それでも、ランサーは…真っ直ぐに凛の瞳を見つめて願ったのだ。
「我は名と命にかけて誓約する。」
凛は、そうハッキリと口に出し、誓約した。多分、二度と触れ合うことがないであろう
男の願いを。
fin
go to fate top
go to home