よるのよなかは



時計の針が十二時を指し示す頃。

獣はしなやかに寝床を抜け出し、主の下へ参じる。夜の夜中は、主の力が一番大きくなる時刻。
獣の身体にも、その影響が現れ、身体の奥底から力が湧き上がるのが分かる。

そう、これから、楽しい楽しい散歩狩りの時間なのだ。
結局のところ、戦う為に喚ばれたイキモノである獣は、獣の性には逆らえない。
満ちた力をを解放し、敵を屠り、わが主の手に勝利をもたらしたい。
表情には出さずとて、心の奥底には、そんな思いを常に秘めているのだった。

そろそろ主の支度も整ったことだろう。尻尾をぴんと立てて、やる気満々の獣は、
礼儀正しく 主の部屋の戸をノックした。


「入っていいわよ、アーチャー」
「失礼する……って、なんて格好をしているのだ、凛」
「なんても、何も……ナイトウェア?」
「語尾を上げるな、語尾を。そんな格好では散歩にでられないだろう」
「ああ、散歩?今日は行かないけど」
「……行かないだと?哨戒活動の必要性は、重々君も理解しているものだと」
「雨降ってるし」
「あ、雨ごときで……!」
「濡れるし、面倒じゃない。イリヤも、雨の日はバーサーカーが気を利かせて、
 散歩行きたがらないって言ってたわよ。あんた、気ぃ利かないわね」
「……」


獣の尻尾が、がっくりと下がった。その様を見て、凛はどれだけ獣が凛との散歩を
楽しみにしていたか、理解する。…が、凛は少し意地悪なので、さらに獣をいぢめてみた。


「あんた、その辺ぐるっと一人でしてくれば」
「この辺りに危険がないことぐらい、既に分かっている」
「哨戒活動の必要性的に、見てみるにこしたことないんじゃない?」
「……」


主と一緒の散歩じゃないと、余り楽しくないのだという事実を、獣は口に出せずにいた。
それを口にするのは、酷く獣のプライドに傷をつけることだったのだ。なので、
獣は反論せず、黙りこくってしまった。

いつもは饒舌に反論してくる獣が、黙り込み、なにやらぷるぷるしている様子に、
凛は少しやりすぎだったことに気がついた。かといって、いまさら散歩に一緒に行って
やるとも言い出しにくいし、やはり雨の中外に出るのは面倒だ。
凛は妥協点を見つけると、指を一つはじいた。その音に気がついた獣が、凛に注目する。


「アーチャー、応接間の鍵付きの棚に入っているおやつ、持ってきて。
 今日は散歩に行かない代わりに、あのおやつでお茶にするわ。…あんたにも、
 ちょっとぐらいなら、おやつあげてもいいわよ」
「……っ!!ほ、本当か!?この間、見せびらかすだけ見せびらかして、一欠けらも
 くれなかった、あの伝説のおやつを……か?それに、こんな時間にお茶にしたら、
 太ること請け合いだぞ」
「なにあんた、おやつ欲しくないの?」
「そんなことは言っていない!……。……主の命令とあれば仕方ない」
「よろしくね」


主の返事を確認すると、獣は冷静な面持ちで主の部屋を後にする。しかし、冷静な
顔とは裏腹に、その尻尾はぐるんぐるんと千切れんばかりに振れ、今にも跳ね出しそうな
勢いだった。


「食べたいなら、食べたいって素直に言えば可愛いのにねぇ」


主である凛は、微かに笑み浮かべながらぽつりと呟いた。しかし、あのぐるぐる振れる
尻尾とのギャップが可愛いから、まぁいいかと思い直すのだった。




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