Web拍手より



瞼を閉じれば



瞼を閉じれば、君の面影。

耳を澄ませば、君の声。



嗚呼、例え肉体が滅びても。

ああ、私に意思がある限り。



アア、キミ…ハ………。





「ねぇ?聞いてるの?」

「ああ、聞いているとも。」



私はゆっくりと瞼を開く。

そして眩いばかりの君の顔を見つめる。

君は少しばかり不満顔で、私を見つめていた。



「ほんとーーーに、思い出さないの。」

「ああ、『ほんとーーーに』思い出せない。」



はぐらかす私の言葉に、君の不満は募るばかりだったね。

君は少し唇を尖らせて、少し意地の悪い光を目に宿らせて。



「じゃあ、貴方の最期の時のことを教えて。

 何時、何処で、何故に。貴方は何を考えた?」



そう、私に質問したのだったね。

だから、私はもう一度、瞼を閉じて考える。





最期の、時。



確か、私は嬉しかったのだ。

私は僅かな救いと、私の肉体の死をもって。

新たなる旅路に出られることを。

新たなる旅路が、より多くの救済を与えると信じて疑わなかった。

より多くの人を救えるという事実が、かつて私が犠牲にしてしまった

大きなモノに成り代わると、信じて疑わなかった。





瞼を閉じれば、君の面影。

耳を澄ませば、君の声。





最期の時も、思い出すのは、君の事。

私の髪を優しく撫でてくれて美しい手。

私の名を愛しげに呼んでくれたその唇。

君の熱が地上からなくなる瞬間まで。

私のことを案じてくれて…笑ってくれた、



…君の優しさ。







「本当に…あんた……あん…ぽんた…ん……ね……。」







ああ。

君という大きな犠牲を払っても。

ああ。

だのに、私の存在には意義がない。

ああ。

だから、もう直ぐ、私は俺を殺して終わりにしよう。





「…ごめん。その質問、軽率だったわ。」

「ん?どうした。まだ、私は君の問いには答えていないが?」

「だって……」





少女は目の前のソファーに深々と腰をかけ、手を組む男の髪を撫でた。

銀色で、少し固めの髪の質感を確かめるように、何度か撫でる。

男は、その行為の意図を理解できないようで、目を見開き少女を見つめる。





「だって、アーチャー、貴方泣きそうな顔をしている。」

「………そうか。」





男は一つ深い溜息を付く。

少女は、なおも優しく、男の髪を撫でてやるのだった。



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