「おーー!思ったより、綺麗な泉だな。」
「本当だね…でも、空の上から良くこんな泉があるって
 分ったね?」
「ああ、まるで宝玉のように、きらりと水面が光ったんだ。
 すんげー綺麗だったんだぜ。今度は、空から来てみようか?」


気晴らしに出かけようとサザキに誘われ、天鳥船から歩くこと暫し。
千尋とサザキはちいさな泉に辿り着いた。泉の周りには木々が鬱蒼と
茂り、空から見える部分はほんの僅かなところだっただろう。
サザキの目の良さに感心しながら、千尋が清水に手を浸していると、
なにやら背後から激しく熱い眼差しがひとつ。


「…どうしたの、サザキ?」
「いやあ、さあ。折角こんな綺麗な泉に着たのに水浴びとか
 しねーのかなぁ、と思って。」
「……だって、サザキがいるじゃん。」
「え、俺?全然気にしてないぜ。つか、寧ろ一緒の方が遙かに
 嬉しいけど。」
「ちょ!そ、そんなサザキと一緒になんて入れないよ!!」
「えーーーーそうなのか?でも惜しいよなぁ…こんなに綺麗な泉
 なのに。羽バタつかせて水しぶき上げたりとか、絶対楽しい
 のにさあ…」


そう少し寂しそうに呟くと、サザキは千尋の横に座って、手持ち無沙汰
な様子で羽をバタつかせた。どうやらサザキは本当に水浴びがしたかった
ようだ。流石に一緒に入るのは無理だが、かといってサザキをこのまま
にしておくのも可哀相だと思った千尋は、サザキに一つの提案をする。


「折角だからサザキだけでも水浴びしたら?流石に一緒はムリだから、
 その間私この辺ぶらついてるよ。」
「え…本当に、いいのか?姫さん、水浴びできなくっても…」
「うん、いいよ。サザキが見つけた泉だもの。サザキ、楽しんで?」
「ヤーハァ!さすがは姫さんだぜ!優しいなっ〜では早速!!」
「もーーーーサザキ、気が早い!!」


水浴びの許しが出た途端、ズボンの留具をガチャガチャやりだした
サザキに、思わず千尋は赤面する。千尋は逃げ去るようにその場を
後にすると、少し離れたところで振り返った。鬱蒼と茂った木々の
所為で既に泉は見えず、サザキの楽しそうな歓声と水音が聞えてくる。


「あはは…サザキ楽しそうだなぁ。でも流石にね…全裸じゃ…
 せめて水着があればよかったんだけど。って……あ。
 そう言えば、サザキ上着ってどうやって脱ぐのかな…。」


サザキの衣装はカリガネに比べて随分と薄着だが、あの大きな翼が
あるのにどうやって服を脱ぎ着するのか、千尋は気になっていたのだ。
以前思い切ってカリガネに質問してみたのだが、約20秒ほど沈黙の後、


「…日向の民の秘密だ。知りたければ同衾するほか、術はない。」


と、渋い顔でさらっと言われてしまった。流石にそれ以上の
質問をすることも出来ず、結局分からないままになっていたのだが、
水浴びをしている間にサザキの衣装を盗み見れば、その構造が分る
かもしれない。


「覗きみたい…だけど、覗くのサザキの服だけだから…」


多分許される、と自分に言い聞かせて、千尋は気配を押し殺して
泉に近づいた。そして、音を立てないようにこっそりと茂みから
顔を覗かせると…


「姫さん、案外イヤらしいな。そういうのが趣味なのか?」
「サ、サザキ!!!っていうか、まだ服脱いでないしっ!!!」
「あはは、全裸の方が良かったか?なんか姫さん戻ってきそうな
 気がしたから、一応服脱がないで待ってたんだけど。」
「あ…そうなんだ…。」
「…なんか、すげーがっかりな表情だな。やっぱ全裸で待機の
 方が良かったか?」
「あ、ううん、それはそれで困るっていうか。…ちょっとサザキの
 服の構造がどうなっているか見たかったな〜と思って。」
「なんだ、そんなことか。教えてやってもいいぜ。」
「えええっ!だって、それは日向の民の秘密で…そのど、どうき…」
「ああ、まあ通常はな。でもま、姫さんの頼みとあれば、特別御奉仕
 で脱がないこともない。ただ、多少は条件はあるけどな。」
「…条件って、なに?」


恐る恐る千尋がサザキに質問をする。サザキの瞳は…なんだか、
悪巧みをしている時のように、キラキラと輝いていた。


「お互いの服の脱がしっこ。」
「ええええ!おた、お互いの!?」
「そう、姫さんが俺の服を一枚脱がすと、俺も姫さんの服を一枚脱がす。
 姫さんの気がすむところまで脱がしていいぜ。その代わり、脱がした
 分は俺も姫さんの服を脱がす。奇遇なことに、俺も姫さんの服の構造
 に関して、かーーーなーーーりーーー興味あるからな。悪い条件じゃ
 ないだろ?」
「ええ…そ、それはそうだけど…」


自分も服を脱ぐという思いがけない提案に、千尋はつい黙り込んでしまう。
しかし、改めてサザキの衣装を見ると明らかに千尋より薄着だ。
自分の着込んでいる服の枚数を千尋は瞬時に計算した。これならば…


「それ、脱ぐのは上から?」
「姫さんのお望みがそうなら、俺はそれでいいぜ?」
「……分った。それで、いいわ。」
「了解。じゃぁ、姫さん、俺の服脱がしていいぜ。」
「ええ…これ、どうなってるの?」
「ほら、この脇のところに留具があんだろ?で、それ外すと…」
「あ、取れた!え…でもあれ、これどうなってるの?更に下に…
 …あれ、えええ?こっちも外さないとだめなの?えええええ?」
「…姫さん、姫さん。夢中になってるところ、悪いんだけど。」
「うん、何?サザキ。」
「それ、既に服四枚目だけど。」
「……え?」
「俺、薄着に見えて結構重ね着してっから。あと、脱がしっこだから
 一枚脱いだら、俺も一枚脱がせてもらわないと。…な?」
「………。よ、四枚も脱いだら、私大変なことに…」
「一国の姫様の誓約に、二言はねえよなぁ?」
「………。」
「では、早速。」


満面の笑みでサザキはそう宣言すると、千尋の手首を掴み、抱き寄せた。
そして腰に手を回すと、ゆっくりとその場に押し倒す。


「…あの、サザキ。なんで私、押し倒されてるの?」
「んーーー。どういう風に脱がすかは特段取り決めてないからな。
 俺の好きなようにやらせてもらう。とりあえず、姫さんの服
 四枚脱がせるところまでは、な。」
「……もう。」


千尋を押し倒したサザキは、そっと千尋の胸元に手を伸ばす。
サザキの余りにも嬉しそうな様子に、千尋は諦めと苦笑いの籠った
溜息を一つ落とすのだった。




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