バレンタイン大作戦@ 



密談

それは、バレンタインまで後1週間をきろうとした、ある日の夕方。
(有)加藤情報サービス取締役社長加藤祭…通称加藤屋は通常業務を終え、家路につこうとしていた。
昨今戦況も落ち着いてきて、残業手当もでない。タダ働きほど加藤屋にとって絶えがたい事はない。

「ちょっと加藤さん、いいかしら?」
「あかんあかん、急ぎやなかったら明日にしてくれへ…あああ!原先輩やないですか!!」
加藤を呼び止めたのは、原副委員長だった。

「うふふ。加藤さんにね、いい話があるのよ。」
「ななななな、なんでっしゃろ?」

つい、どもってしまう加藤。加藤は事務官として善行委員長の間近で働いており、クラスが違うとは
いえ、原との接点が多い。つまり原が…美しい薔薇のような唇で、上等の笑みを浮かべている時は…
なにか企んでいるでいる事に察しがついたのだ。そして、原の企みは…大抵悪辣を極める。
だがここで原の話を聞かなかった場合、後々どうなるか考えると…それも大変恐ろしい。
加藤は心の中で号泣しながら、原の『いい話』を聞かざるを得なかった。




…1時間後。


「いひひひひ…原先輩もなかなかの悪ですなぁ!」
「うふふふふ。加藤さん、悪い扱いはしないから。良きに計らってちょうだいね。」


なにやら密談が成立したらしい。




2月14日 朝


「うぉ〜〜〜!!!遅れた!!すまないなっ!!!」
毎日の恒例行事とはいえ、相変わらず豪快な勢いで本田が1組教室へ入ってきた。
よし、これからHRを…と言いかけた本田であったが、教室に妙な違和感を感じた。
やけにそわそわする男子と…おや?女子が誰もいない。

「あれ…女子はどうした!委員長!!」と声をかけるも善行は不在。
代わりに、珍しくも朝早くから学校に来ていた滝川がその問いに答えた。
「んあー…なんか原先輩が、今日は午前中の授業はお休みさせてもらうわよ!とか言って…
女子全員連れていったッスよ。」

ふと、今日の日付を思い出す本田。…2月、14日?…。
「なななな、なにーぃっ!!俺を差し置いてバレンタインか〜〜〜!!!!」
1ミリ秒で沸点に達した本田は、片手でマシンガンを振上げ全力射撃を始めた。
そして同じく1ミリ秒で本田の行動予測を終えた男子全員は、机の下に避難した。

ガガガガガガガガガ!

「うぁ!!!!」
タイミング悪く遅刻して教室へ入ってきた善行は、危うく銃殺されるところであった。
「委員長〜〜〜!!お前のしつけがなってないから〜〜〜!!」
弾倉交換を終えた本田は最速コマンドで善行に狙いをつけた。
「ほ、本田先生!一応生徒に本気で狙いをつけるのはやめてください!
 それに私は、加藤さんから伝言を預かってきたんです。」
「なんだ!早く言え!!!」きっかり善行に狙いを定めて外さない本田。
「はい。本田先生にもお手伝願いたいので、至急調理実習室へ来ていただきたいとの事です。」

「…あ〜俺も?」微妙に顔が緩みだす本田。
「はい、そうです。」背中に嫌な汗をかく善行。
本田はマシンガンを下ろすと、くるっと黒板の方へ向き直り、なにやらデカデカと書き出した。



「本日午前中自習!!」


うぉー!!!と机の下から男子の歓声が沸き起こる。
「じゃぁ俺用事あっから!行ってくるわ!!!がはははは!!!!」と軽快な足取りで本田は
教室を出て行った。そんな本田を見送って、善行はほっと胸を撫で下ろした。

「…不埒なヤツが調理実習室へ入ってこないよう、見張り頼みますってところは
 省略して正解でしたかね。」




一方そのころ、調理実習室では。



1組・2組の女子…すなわち5121小隊の女性隊員全員によるバレンタイン大作戦が決行されていた。
スローガンは「5121しょうたいはみんななかよしさんでらぶらぶなのよ!」である。
別名、本命には愛を・どうでもいいやつにも義理を!両面作戦は原司令・加藤副司令の指示のもと
順調に進められていた。

絢爛舞踏の出現後明らかに戦況は優位になったが、相変わらず嗜好品の入手は困難をきわめた。
そこで女子全員でまとめて仕入れ・作成をすることによってコストを下げることにしたのだ。
そうすれば、本命チョコに気合を入れることも出来るし、お世話になったあの方にちょっとした
クッキーでもという余裕が生まれる。そう説明する原に、女子すべてが甚く賛同し、本日午前中の
授業ブッチ&チョコレート作成となったわけだ。…加藤を除いては。
加藤はなにやら…こっそりと…本命とも義理ともつかないチョコレートを作成していた。
しかし皆は本命チョコを作成するのに熱中していて、加藤の不審な様子に気がつくことは無かった。

1時間もすると、皆本命チョコを作り終え、義理チョコクッキーの作成に乗り出す。
本当は義理も全部チョコレートで作りたかったのだが、さすがの加藤屋でもそこまで物資を
調達することができなかったのだ。

しかし、そんな最中、未だに本命チョコを作り終わることが出来ない女子がいた。
新井木である。新井木は…家事技能を全く持っていなかった。なおかつ、味のれんで
バイトをしようと思ったら、おやじに遠まわしにや〜んわり断られたことのある女だった。

「うぐぐぐ〜僕に家事技能があればぁ〜!!!」
ふと隣を見ると田辺が丁度今、本命チョコを作り終えたところであった。美しい薔薇を模した、
チョコレート。そういえば田辺は家事2だったはず…新井木はひらめいた。
「今から訓練して技能ゲットしてくればいいじゃん!!行くよ!!マッキー!!」
「え、あぁう〜まだ遠坂さんの分、ら、ラッピングがぁ〜きゃぁぁぁ〜」
新井木は田辺の手首をむんずとつかむと猛然と調理実習室を後にした。

そんな新井木を見ながら、ひとつ溜息をつく原。
まぁ新井木さんはもとより戦力外だったし、と思い直し他のメンバーを見回ることにする。

「あら、それ…」東原の型抜きクッキーを見た原が声をかける。
「うーんとね、おほしさまなのよ!!」ニコニコ笑いながら型抜きをする東原をみながら、
バレンタインはハートじゃないのかしらと思う原。
その気配を察してか、壬生屋が代わりに謝るように説明した。
「ちょうど、バレンタイン用の型が売り切れてしまっていて…クリスマス用なら随分と
 お安くしていただけるってお話でしたのでつい。」
「ほらもとこちゃん!くつしたさんもあるのよ!!くつしたさん!!!」
そう言いながら東原が靴下型クッキーを量産し始めた。
「…まぁ、いいわ。人にはいろいろな嗜好があるしね。」と呟く原。
え?嗜好???と壬生屋が聞こうとしたそのとき、加藤が原に泣きついてきた。

「は、原司令〜申し訳ないんやけど…ちょこっとばかり義理クッキーの材料が足りんみたいや…」
ええ?と怪訝な顔をする原。あれだけ言っといたのにという表情がありありと読み取れた。
「いやぁ、用意はしたんやけど、本命チョコの方にみんな気合入りすぎてもうて。」
「まぁ、それはしょうがないわね…で、何人分たりないの?」
「若宮さんの分ぐらいなんですけど。どうしまひょか?」
「あー若宮君なら大丈夫よ。あんまり味に頓着しないし。流しの下にプロテイン入ってる
 から、それ混ぜ込んで作っちゃっていいわよ。」
「ええ〜マジっすか。」

「もとこちゃん、もとこちゃん!」原と加藤のやり取りを聞いていたらしい東原が
原のキュロットの裾を引っ張る。
「やすちゃんのぶん、おいしいくっきーつくれないの?」そう聞く東原の顔は泣き出しそうだ。
どうやら原の若宮に対するぞんざいな扱いに心を痛めたらしい。あ〜あ、泣く子には勝てないなぁ
と思いながら、原は目線を低くし、優しく東原に話し掛けた。
「若宮君にはね、筋肉が付くように特別な粉でクッキーを作ってあげるのよ。」
「きんにく?」小首をかしげて聞く東原。
「そうそう。筋肉よ。スカウトは体が資本だから。」上手く言いくるめたかな、とほっとする原。
「きんにくはとってもいいのよ〜」原の話を聞いて、東原はニコニコ笑いながら答えた。

「…は?」原は思わず聞きなおした。回りの女子も思わず手を止めた。
東原は可愛らしい瞳でくるっと周りを見回し、再度話し始めた。  

「うーんとね、このあいだね、やすちゃんがゆうみちゃんにいってたのよ。
 『…ん? きんにくか。…おいおい、きもちわるいはないだろ。こんなにいいのに。…ほら、ほら。』
 って。それからね、それからね…」

「って!まだ続きがあるんかい!!!」身を乗り出す加藤。
「ふ、不潔です!!!!」と顔を覆いながら絶叫するも、耳はしっかり話を聞いている壬生屋。
他の女子もかなり興味津々だ。原は覚悟を決め、東原に話を促した。



…15分後。



その場にいた女子のはじらいがぶっとんだ!
その場にいた女子は新らしい世界をしった!
その場にいた女子は東原に覗き見されてた新井木を哀れんだ!
その場にいた女子はこれから出来るであろう彼氏の性癖を心配した!

原は東原を奥様戦隊へスカウトしようと本気で考えた!!


そしてその場にいた女子は…
血気盛んにガンパレードで、本命チョコを渡しに男子たちのもとへ飛び出していった!!!



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