七巧節



「文若さん。明後日の午後、少しだけお休みをもらう事ってできますか?」


午前中の仕事もそろそろ終わり、といった頃合。
両手いっぱいの書簡を抱きかかえた花が、書簡の影から窺うように文若に声をかけた。
僅かに上目遣いに問いかける花の様子は、いたずらを仕掛ける前の子猫のように
きらきらと輝いている。そんな花の様子を見た文若は、ゆっくりと筆を止めると、
わざと詰問するような口調で花に問い返した。


「……何故、急にそんな事を言うのだ?」
「ええっと、あの……」
「何か、言えぬ事なのか?」
「そ、そんな事は無いんですけどっ!」


慌てて反論する花を一瞥すると、文若は深く眉間にしわを刻み、これ見よがしに
一つ深いため息をついた。実は、花が朝からそわそわしている事に文若はとうに
気がついていたのだ。そして、その理由も大方察しがついていた。実は近々、
近隣の街でなにやら祭りが催されるのだが、それに連れて行って欲しいと、
花は強請るつもりなのだろう。仕事以外に疎い文若の耳にも入るような
祭りなのだ。まだ不意に幼い面差しを見せる花が、興味を持ったとしても不思議ではない。

正直仕事が忙しくて祭りに行くような暇は無いが、花がどうしてもと強請るのであれば、
多少なりとも考えなくはない……文若は朝から仕事の傍らそんな事を考えつつ、
花が祭りの話を言い出すのを今か今かと待ち構えていてた。しかし、
いざ声をかけられたかと思えば……文若の予想を裏切り、ただの暇乞い。
そして、暇を乞うその日にちは間違いなく祭りの日なのであった。


「では、理由を言え。理由の如何によっては、暇を与えよう」
「……言わなくちゃ、駄目ですか?」
「無論。暇が欲しいならば、筋を通せ」
「……に、行きたいです」
「聞こえんぞ」
「お祭りに行きたい、です」
「……」


花の答えに、文若の胸に苦い何かが込み上げてくる。しかし、正直に理由を言った手前、
祭りに行くなとも言いにくい。文若がが許可の言葉を口にしようと思ったその時、
花が恥ずかしそうに言葉を継ぎ足した。


「女の人だけのお祭りなんです。女の人がよい奥さんにな れるように、お供え者を作って、
星のお祈りをするんです。私……よい奥さんになれたら、いいなって……」
「……あの街の祭りというのは、そういう類の祭りだったのか」
「文若さん?」


誰のよい妻になるのか、というところは口を濁したまま、頬を染めて上目遣いに文若を
見つめる花の様子に、思わず文若の口元がほころぶ。コホンとわざとらしい咳払いを
一つしてそのほころびを誤魔化すと、文若は改めて許可の言葉を口にした。

「暇は与える。だが、祭りに行く必要は無い。お前は……そのままでよい。
そのままで十分、よい妻になるだろうからな」

文若の言葉に、花は紅に染めた頬を一層赤らめるのだった。