『人間は堕落する。義士も聖女も堕落する。
それを防ぐことはできないし、
防ぐことによって人を救うことはできない。』
corrupt
組み敷かれ仰ぎ見る男の顔は、未だかつて見たことがない表情をしていた。
絶望も、虚無も、偽りもなく。ただ、その瞳は私を見つめて。
嬉しいんだといわんばかりに、少しだけ微笑んだ。そして、男の手は私の体を愛でる。
アーチャーの左手が凛の太腿に伸びる。軽く一撫ですると、ハイソックスの中に指を滑りこませた。
そして軽く指を立て、凛の太腿の肉感を楽しみながらゆっくりとソックスを脱がせる。
「ちょ、ちょっとアーチャー。ハイソックスは別にいいでしょ!」
慌てる凛をまるでからかうかのように、アーチャーはさらにゆっくりとソックスを脱がせた。
あらわになった凛の太腿は、暗い地下室の中でも白く艶やかに見える。
魔術師は血に汚れているという。だが、凛の白い肉体から発する魔力の香りはその様な血生臭さを
感じさせなかった。それは凛が彼女自身の血に汚れていないからだろう。
「凛…初めてなんだな。」
「う、うるさいわね!たまたま今までそういう機会がなかってだけじゃない!」
「いや、別にそういうことを言っているのではなく…」
アーチャーはそこで言い澱み、凛から視線をはずす。そして、辛うじて聞き取れるかどうかという
ような小声で呟いたのだった。「…嬉しいんだ…」と。凛に快楽も、痛みも初めて教える男が
自分であるということに。それを凛に許されているということに。受け入れられたという事実が。
…アーチャーは一呼吸して、凛を真っ直ぐ見つめる。
「私は、嬉しいんだ。」
今度ははっきりとそう凛に伝えた。凛も、アーチャーを見つめる。嬉しい、というくせに少し泣き
そうな顔をするアーチャーを。ああ…本当にコイツ…しょうがない奴だわ…思わず凛はアーチャーの
首筋に手を回しアーチャーを引き寄せる。そして、耳元で囁いた。
「痛くしたら、承知しないんだから。」
「ふむ。了解した。」
自分でもその返答がおかしかったのか、アーチャーは一つ苦笑いをした。そして、手早く凛の
服を脱がし始める。
「えースカートだけでいいんじゃないの?」
「いや、それでは君の命令を完遂することができないよ。それに私も…」
「私も?」
「我慢できない。」
そう言うや否や。アーチャーは凛の背中に手を回し、器用に片手でブラのホックをはずした。
凛は抵抗する間もなく、上半身の衣類を脱がされてしまった。
「ちょっと、アーチャー!ん…」
非難しようにも、その唇は再度アーチャーの唇によって塞がれる。そして、十分キスをかわした
あと、アーチャーの唇は凛の首筋に何度もキスの雨を降らせた。
熱い。
体が、震える。
ゾクゾク、ゾクゾク。
今まで体験したことがない感覚。
いや、あの時の感覚に近いのかもしれない。
魔術の発動。詠唱と魔力の開放。あの時私は…モノになる。
魔術を体現するエンジン。ただ、ひたすらに自らの魔力を回す無機物。
ああ。だから。
あの時とは似ていて異なる。あれは私をモノにする。私の思考を放棄させる。
「うぅ…あ…ん…」
アーチャーの舌先が凛の腋の下から柔らかい膨らみに向かって這う。しかし、凛のその柔らかい
膨らみの…一番敏感な薄紅色の尖りにはなかなか触れてはくれなかった。執拗なまでにその近辺
を舐める。じらされて、じらされて…不意に微かに触れただけで、その尖りは硬さを増す。
思わず、凛はアーチャーの頭を押さえた。
「あ…ぅ…アーチャー…」
「どうした…凛……どこか舐めて欲しいのか?」
「そ、そんな…ちが…あ……」
「…素直じゃないな。ん…ここだろう?」
アーチャーは凛が一番触れて欲しいところにキスをした。そしてそのままその尖りを咥え込む。
舌先でレロレロと凛の尖りをいたぶる。これまでじらされていた分、その快感は津波のように凛を
襲った。よがる凛の反応に、アーチャーはさらにその尖り刺激を与える。
「あ…あん…あ…あっ…」
とろけかける意識のなか、凛は思う。
ああ。そうだ。
あの時とは似ていて異なる。これは私をケモノにする。私の思考を支配する。
アーチャーの指が、凛の一番触れられたくないところへ伸びる。内腿を撫で上げ、その付け根の
中に、指を滑り込ませる。自分の中に入り込む異物感に凛は身を震わせる。進入したアーチャーの
指は凛の中で蠢き、弄ぶ。その度に凛の思考はとろけ、唇からはしどけなく喘ぎ声が漏れる。
思考が支配される。
ただ、アーチャーの肉体を受け入れる体になる。
思考が単純化する。
ただ、アーチャーに挿れて欲しい体になる。
満たしたい。満たされたい。お互いの思考がシンクロする。
「アーチャー…」
だから、男の名前を呼ぶ。その名前が例え仮初であっても。
「凛…」
だから、女の名前を呼ぶ。名前を呼べば分かるから。
そこに、体があることが。そこに、心があることが。今、ここにいる。清濁全てを飲み込んで。
「うあぁあぁ…」
アーチャーのモノが凛の中にゆっくりと進入した。その肉を割って、奥まで突き進める。
「う…」
思った以上に狭い。十分に前戯を加えたつもりだったが、凛の中の締め付けは想像以上にキツく、
アーチャーに耐えられない刺激を与える。それでも、収まるところまで収めて、凛の様子を伺う。
凛の白い肉体は、アーチャーの与えた愛撫の後と破瓜の血で紅く染まっていた。瞳には微かに涙を
浮かべ、息も絶え絶えにアーチャーを見つめていた。しかし、それでも凛は、そっと伸ばした手で
アーチャーの髪を撫で、囁いたのだった。
「もっと、きて。もっと、好きにしていい。」
「……凛……凛……リン!!!」
アーチャーはただひたすら凛の名を呼び、腰を突き動かす。その度に漏れる、凛とアーチャーの
喘ぎ。思考と快楽がシンクロし、魔力が流転する。未だかつてない激しい感覚が凛とアーチャー肉体
を襲う。激しく凛に腰を打ちつけながら、アーチャーは理解する。
触れるのが怖かったのか?
否。
触れた先にある気持ちが怖かったのか?
否。
何を知られるのが怖かったのか。私の劣情?私の虚無?
否。
既に、それを考えることが。既に、それを怖がることが。
君に嫌われることが、君に絶望されることが。
そう、それが怖かった。
君に、恋してしまったから。
それは死んでも伝えてはならない思いだったから。
そう、だから怖かった。
だのに、君は…私を受け入れてしまった。私は君に満たされてしまう。ここに留まれないことは
お互いに承知の上で。刹那の希望を与えられてしまった…本当に君って人は…
「凛、一度抜くぞ?」
「いや…そのまま…アーチャー…中で出して。魔力、還元して。」
「…君って人は…」
「ん…アーチャー…早くぅ…ん」
アーチャーは凛の願い通り、さらに腰を突き動かし、凛の中で果てた。凛もそのアーチャーの
熱を中で受け取り満たされる。遠のく意識の中、凛は理解する。
アーチャーを満たしたかった。
それは本当のこと。
でも。
私も満たされたかった。
それも本当のこと。
限られた時間の中で。
先がないのは分かっていても。
それでも、それでも。
ああ、私は…
アーチャーの事が好きなのね。
だから…だから…。
そこで凛の意識は途絶えた。
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go to home
*文頭挿入『堕落論』坂口安吾著より抜粋